HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報627号(2021年5月 7日)

教養学部報

第627号 外部公開

〈後期課程案内〉工学部 工学と夢

工学系研究科 副研究科長 鈴木雄二

https://www.t.u-tokyo.ac.jp/

 工学部の前身の工部大学校は、「長州ファイブ」の一人として有名な山尾庸三を工学頭として一八七一年に創設されました。後に首相となる伊藤博文が、グラスゴー大学の教授で熱力学の基礎を築いたウィリアム・ランキン教授に都検(実質的な校長)の人選を依頼して、二十四才の若さのヘンリー・ダイアーが選ばれました。ダイアーは八名のイギリス人教師を連れて来日して、世界で初めて「工学部」を創設し、日本の工学の礎を築きました。当初は土木工学科、造家学科、機械工学科、造船学科、電気工学科、応用化学科、採鉱及冶金学科の七学科体制で始まりましたが、その後のサイエンスやテクノロジーの進化に伴って現在では十六学科に発展しています。
 染谷隆夫・現工学部長が掲げる工学部・工学系研究科のスローガンは、「工学は、夢を描き、未来をつくる」です(教養学部報六百十八号)。対象を探求して得た知を活かし、夢を描いて未来をつくる人が、「エンジニア」であり、未来の社会を予測し、例えば十年後に社会では当たり前に使われるモノ・コトを世界の誰よりも先に生み出していくことが最大の醍醐味と言えます。工学部ではこのような「エンジニア」を育てるための教育と研究を行っています。
 工学部のカバーする領域は極めて広範で、量子コンピュータ、新感染症のための創薬、深層学習や大規模データ解析などの新しい領域はもちろん、超小型人工衛星、カーボンフリーのためのエネルギー変換、災害に強い都市や交通、人の生活を豊かにする新材料やシステム、歴史や芸術とものづくりの融合、などなど、様々な教育と研究が行われています。詳細は是非、工学部の各学科のホームページやガイダンス資料を見てください。
 例年、学部前期課程の学生の皆さんの約三分の一にあたる約千人が工学部に進学しますが、学部や学科の選択にあたって、ご自身のキャリアパスをよく考えて欲しいと思います。大学に入学するまでは、ある意味「入学」という多くの学生が共有する目標に向かって努力して来たと思いますが、これからの人生のステージでは、「自分は何をやりたいのか、将来の夢は何か」を考え、一人一人が自分だけの目標を持つべきです。工学部の学生の八割以上は修士課程に進学し、その一部は博士課程に進みます。修士修了までを考えても、進学選択後も四年半は学生生活を続ける人が多いのですが、今から五年後、十年後、二十年後の目標を持って取り組んで欲しいと考えています。その一助とすべく、工学部では駒場生向けに「アントレプレナーシップ・セミナー」を開催しています。「アントレプレナーシップ」は直訳すると「起業家精神」であり、新しいアイデアによって様々な制約を切り開いて革新的なモノやサービスを生み出すことです。ともすると「スタートアップ(ベンチャー企業)を作る人達だけのもの」と誤解されがちですが、社会環境が急速に変わっていく現代においては、大きな組織や大企業で活躍するためにも必要なスキルです。その最初の段階では、自身を見つめ直し、将来設計を考え、どのように社会に貢献していくのかを考えることが必要となります。新型コロナ感染症のため、同期の人達と話す機会がこれまでよりも少なくなってしまったかと思いますが、それでもなるべく多くの友人と自身の考えを語り合い、より大きな夢に膨らませていって欲しいと考えています。
 工学部には、国際工学教育推進機構という組織があり、ものづくり教育をはじめとする創造力育成、英語教育などを通じた国際感覚の養成を目的として、工学部共通の様々な講義・演習を提供しています。様々な学生競技会などへの参加を目指した「創造性ものづくりプロジェクト」、海外大学の学生も一緒に交じってオンラインで事業提案やロボット試作を少人数で行う「国際連携演習」、英語の実践力を磨くための「アカデミック・ライティング、プレゼンテーション」「スペシャル・イングリッシュレッスン」などが提供されています。また、最新鋭の3Dプリンタやレーザー加工機を備えた「ものづくり工房」を整備し、様々な課外活動も積極的に応援しています。最近では、新型コロナ感染症対策のために活動が一部制限されるなか、工学部のサークルであるRoboTechが大学生のロボコン国際大会で1位を獲得し、総長賞を受賞するなど、自主的な活動が活発に行われています。
 現在、我々は大きな変革期にあります。ヘンリー・ダイアーが初めて日本の地を踏んだときのように、社会の大きなうねりが感じられるのではないでしょうか。このような時代こそ、「夢を描いて未来をつくる」ことが求められています。皆さんの「夢」が実現できそうかどうか、是非、工学部の各学科のガイダンスに参加して、自身の目で確かめてください。そして、私たちと一緒に工学を学びましょう。

(副研究科長/機械工学)

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