HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報627号(2021年5月 7日)

教養学部報

第627号 外部公開

〈後期課程案内〉薬学部 今こそ求められる「創薬力」

薬学系研究科 副研究科長 清水敏之

http://www.f.u-tokyo.ac.jp/

 この一年間は新型コロナ一色でした。毎日新型コロナの感染状況がトップニュースとなり、様々な人々が苦しんでいる様子が伝えられています。この状況はまだ続くかと思うと暗い気持ちになります。一方、新型コロナに対するワクチン開発、接種の開始は希望の持てるニュースだと思います。ワクチン同様、新型コロナ治療薬に対する期待も大きいものがあります。レムデシベル、アビガン、クロロキン、フサン......普通の世の中であればめったに報道されないような薬の名前が毎日のようにニュース、ワイドショーに取り上げられ皆さんも一度はその名前を聞いたことがあるのではないでしょうか?「薬」への注目度がこれまで以上に高まったこともあり「薬」という文字がはいった学部にいる我々もさらに研究を進めなければならないと強く感じるところです。
 それでは実際に薬学部では「薬の研究」が行われているのでしょうか?そもそも「薬学部は薬剤師を育てる」ところではないでしょうか?どちらも間違いではありません。そもそも「薬の研究」とは何でしょうか?「薬の研究」のためには、生命現象を解明する、正常な生命活動が妨げられたことに起因する疾患を明らかにする、より複雑な化合物の合成を可能ならしめる反応機構を開発する、生命現象を人為的に操作する(低分子)化合物を探索・合成する、そのような化合物と生体高分子(多くの場合タンパク質)との相互作用を解明する、というように様々な学問領域が必要となります。そのため、薬学部では、有機化学、生化学・分子生物学・細胞生物学、免疫学、微生物学、物理化学、分析化学、薬物動態学、薬品作用学、天然物化学等の講座が設置されるとともに、薬学部の学生はこの講義を受けることになります。どの研究室も基礎科学を重視した極めてレベルの高い研究を行っています。さらには実社会とも関わりの深い医薬品評価科学、医薬政策学、育薬学等の講座もあります。「薬の研究」が総合学問とよく言われますが、薬学部もそれに応じて多岐に渡る研究分野をカバーしていることがお分かりになると思います。薬学部生は知らず知らずのうちに「創薬力」がつきます。
 一方、薬剤師になるためには六年制のコース(薬学科)を選ばなくてはなりません。東大薬学部ではおよそ一割の学生が六年制コースを選ぶことができます。三年生の冬頃に六年制を希望する学生に対し面接を行い希望者が定員を超えた場合は総合的に判断して六年制学生が選ばれます。六年制コースの学生は病院・薬局実習なども受けなければなりませんが、通常通り研究室に配属され研究も行います。六年生の冬頃に卒業研究発表が行われますがどの学生も非常に高いレベルの研究発表を行っています。
 薬学部の大きな特徴の一つは学部≒学科であることです。例えば理学部なら物理、化学、生物など様々な学科がありそれぞれがほぼ分かれたようになっていますが、一学年約八〇名の薬学部生は二つの学科に分かれるものの完全に分かれてしまうようなことはありません。また研究室も二〇講座ほどしかなく、東大の中でももっとも小さな学部です。建物も本部棟の横の一箇所に固まっています。そのため学生同士、教員同士、研究室同士の風通しが非常に良く、分野横断型の教育・研究活動を実施しているというのも薬学部の大きな特徴の一つです。二年生の冬学期から始まる専門授業を皮切りにほぼ一年に渡って行われる学生実習など全員が同じ講義・実習を受けます。この間に五月祭の企画・展示、初夏に検見川で行われる陸上運動会、秋に戸田公園で行われる水上運動会を運営します。必然的に同級生同士は顔見知りとなり強い結束が生まれます。この付き合いは一生の宝になることと思います。ただ残念なことに昨年一年は授業はオンラインになり、実習も前期はオンライン(後期はオンラインと対面のハイブリッド型)、運動会はすべて中止となってしまいました。通常に戻ることを心から願っています。
 これからも新型コロナとの闘いは続くでしょうし、新たな感染症の脅威にもさらされる可能性も十分あります。まだ有効な薬がない疾患も多数あります。やはり「薬」は希求されています。このために「創薬力」が求められています。薬学部ではその礎が築かれます。日本はアジアでは唯一オリジナルな新薬を出してきた国ですが、本薬学部出身者も大きく貢献していますし、様々な学問分野でも本薬学部出身者は活躍しています。薬学部への進学を考えている学生の皆さん、是非我々の仲間になりませんか?充実した学生生活を送れることと思います。そして最先端の薬学研究を一緒に行っていきましょう。

(副研究科長/構造生物学)

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