HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報628号(2021年6月 1日)

教養学部報

第628号 外部公開

<時に沿って> 懐かしい駒場

星野 太

image628_02_2.jpg 二〇二一年四月に総合文化研究科に准教授として着任しました。前期課程では哲学・科学史、後期課程では現代思想、大学院では超域文化科学専攻表象文化論コースの関連科目を担当します。
 わたしは二〇〇一年に本学に入学し、駒場で二年、本郷で二年、それから本研究科の大学院生として六年を学生として過ごしました。本郷にいた期間も含め、駒場には学生として十年ほど通った計算になりますので、「三層構造」とよばれる本キャンパスの独特なシステムにもそれなりに慣れ親しんでいるほうだと思います。とはいえ、わたしの記憶のなかの駒場の姿は、学生として過ごした(まだかろうじて旧図書館も駒場寮もあった)時代のそれではなく、特任教員として過ごした二〇一二年から二〇一六年にかけての記憶に完全に上書きされています。
 詳細を記すと長くなりますが、その四年間、わたしは駒場で「共生のための国際哲学研究センター(UTCP)」と、博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」という二つの組織で仕事をする機会に恵まれました。新しい組織の立ち上げに関わったことで大変なことも多かったですが、このときの経験のおかげで、部会や専攻を問わず、駒場のさまざまな先生方とご一緒できたことは忘れがたい思い出です。わたしが駒場の「広さ」を知ったのは、学生として過ごしていた時よりも、むしろ博士号取得前後にあくせく働いていたこの時期のことであったと思います。
 そんな日々の仕事で疲れた軀で駒場をあとにするとき、いつも正門守衛室のそばに積んである『教養学部報』を手に取るのが楽しみでした。学生・教職員にむけられたそれらの文章のなかには、いたって真面目なものからユーモアに富んだものまであり、忙しない日々の大きな慰めになったものです。年度末に退職される先生方の「駒場をあとに」を読むと、いつもしんみりとした気持ちになりました。ほかの大学と較べたことはありませんが、これだけの美文・名文が並ぶ学内報も(きっと)めずらしいのではないかと思います。そのようなわけで、わたしがいまこの学部報に寄せる文章を書いていることを、いささか不思議に感じています。
 二〇一六年に駒場を離れてからは、公立大学と私立大学に計五年間奉職していましたが、このたび縁あって懐かしい駒場に戻ってくることになりました。
 最後に新入生のみなさんに。かつて学生としてこのキャンパスに足を踏み入れた先達としては、この場がさまざまな出会いを通じて人生の航路を大きく変える、危うくも魅力的な環境であることは保証したいと思います。初志を貫徹することも大切ですが、時には思い切って道を踏みはずしてみるのも一興でしょう。ひとりの教員として、みなさんの人生の「脱線」のお手伝いができたら、それにまさる喜びはありません。

(超域文化科学/哲学・科学史)

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