HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報628号(2021年6月 1日)

教養学部報

第628号 外部公開

<時に沿って> 駒場から 三十年後の世界へ

王欽(Wang Qin)

 二〇二一年四月に地域文化研究専攻に着任しました、王欽と申します。専門は二十世紀中国文学・比較文学・批判理論です。現在はエクリチュールとモダニズムの問題系を手掛かりとして、竹内好論と魯迅論に同時に取り組んでおります。
 七年前に、わたしはアメリカのニューヨーク大学で比較文学の博士課程に在籍したとき、一度「特別研修生」として駒場に留学しに参りました。半年ぐらいの短い滞在でしたが、当時中島隆博先生の『表象の終わり』という授業に出て、知的刺激を受けながら、駒場ならではの雰囲気を味わいました。
 短い留学生活が終わって以来、何度もニューヨーク大学の「International Center for Critical Theory」と東京大学の「共生のための国際哲学研究センター(UTCP)」が共催したWinter Instituteに参加して、自分の研究にとって貴重な経験を得ました。
 そして、ニューヨーク大学を卒業して北京大学でポスドク研究員として働いてから、二〇一九年九月に東京大学東アジア藝文書院(EAA)の特任講師に着任しました。EAAで「東アジア教養学理論」、「東アジア教養学演習」、「世界文学と東アジア」などの後期課程の授業をご担当し、さらに以前自分が経験した駒場における独特な学術的雰囲気を再確認しました。しかも、教育と研究に関して重要なのは、つねに新しい質問を出すことだ、ということを駒場でつくづく実感しております。というのも、新しい質問は新しい可能性に、つまり未来につながっているからです。
 EAAでよく議論されている、「三十年後の世界」というテーマを借りていうと、駒場で行われている教育と研究は、非常に多彩で多岐であるにもかかわらず、三十年後の世界を想像・創造するという点で、いいかえれば「現在を未来へ開いていく」という点で、共通的なプラットフォームを築いているといっても過言ではないでしょう。
 したがって、わたしは主に二十世紀中国文学について授業を教え、研究を行っておりますが、未来へ開いていくという姿勢を取ってテクストにアプローチすることに関していえば、やはり二十世紀中国文学を理解するために、世界中の文学的・哲学的・歴史的・政治的な(コン)テクストを考えなければなりません。ただ、それはグローバリズムの技術的変化がもたらした結果ではなく、むしろ未来へ開いていく姿勢そのものに含まれている「世界性」といったほうがいいかもしれません。この意味で、いわゆる「世界文学」は求めるべきものというより、すでにつねに実現されているものであり、われわれが無視しようとしても無視できないリアリティにほかならないとわたしは思っております。駒場は、さまざまなテクストが触れ合いながら、新たな可能性を生み出していく場所を提供しています。
 今後、わたしは地域文化研究専攻の准教授として、つねに開放的な姿勢を保ちながら、研究と教育に力を注ぎたいと思っております。

(地域文化研究/中国語)

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