HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報628号(2021年6月 1日)

教養学部報

第628号 外部公開

<時に沿って> ラケットからピペットへ

門口智泰

 はじめまして。運動適応科学講座 身体運動科学分野に助教として着任いたしました、門口智泰(かどぐちともやす)と申します。
 私はこれまで、様々な疾患や加齢に伴うサルコペニア(筋萎縮・筋肉減弱症ともいいます)のメカニズムを探る研究に邁進してきました。サルコペニアを生じている人では、健常者に比べて長生きしにくいということが明らかにされていることからそのメカニズムの解明は急務ですが、未だ十分に明らかとなっていません。私は、この研究結果が予防や改善につながる鍵となると考え、日夜、動物や細胞を用いた研究に励んでいます。
 私は北海道札幌市で生まれ育ちました。札幌市とは言え、中心部から少し離れた地域であったため、裏山にスキー場がある自然豊かな環境でした。そのため、小学生の私は、雪のない日は自宅近隣を走り回り、冬になるとシーズン券(いわゆるシーズン中の乗り放題券)を買い、学校から帰宅するとご飯も食べずにスキーをする、という活発な少年時代を過ごしました。中学校からは兄の影響でバドミントンをはじめ、高校、大学と選手生活を継続、実業団選手を目指して奮闘することになります。そんな研究とは無縁の世界で過ごす中、ゼミでお世話になった恩師に出会い、「研究者」の世界に魅入られ、利き手に握っていたラケットはピペットに代わっていくことになりました。
 最初の本格的な研究活動は、修士課程のとき、運動時や心血管疾患者での身体の変化、特に骨格筋での代謝変化に興味を持ったことからはじまりました。その後、ヒトの骨格筋で起こっている様々な代謝変化をより突き詰めたいという想いから、北海道大学大学院医学研究科 博士課程に進学、基礎研究を開始します。当時は循環器内科に所属し、慣れない環境の中、循環器内科医の先生方、諸先輩方にご指導いただき、ご迷惑をおかけしながらも、心血管疾患に伴うサルコペニアのメカニズムを酸化ストレス(活性酸素種ともいいます)の側面から明らかにし、学位を取得いたしました。
 学位取得後は、ご縁があり、二十八歳という年齢にして初めて故郷札幌を離れ、順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンター・循環器内科学講座に博士研究員として着任しました。同大学では、新天地での生活や仕事への不安に苛まれながらも、多くの循環器内科医、研究者の方々にフォローいただきながら、心血管疾患に加え加齢に伴うサルコペニアについて研究し、リン脂質代謝酵素という新たな側面からメカニズムの解明に切込みました。幸運な事に、この研究により公的研究費の獲得、国外学会発表さらには国際学術誌への採択も決めることが出来ました。
 その後、慶應義塾大学医学部で特任研究員として勤務し、加齢に伴うサルコペニアについて、さらなる研究を行いました。同大学では一年間という僅かな期間ではありましたが、通常の研究に加え、産官学連携、創薬や既存薬の新効果などに関する新たな事柄に触れることができ、大変大きな刺激を受けました。
 この度、ご縁があって駒場という新しい環境でスタートを切る事になりましたが、これまでお世話になった先生方への感謝や初心を忘れず、新たな気持ちで教育・研究に取り組んでいく所存ですので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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