HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報629号(2021年7月 1日)

教養学部報

第629号 外部公開

<時に沿って> 偶然の結びつき

三浦航太

 二〇二一年四月に総合文化研究科地域文化研究専攻の助教に着任しました、三浦航太と申します。スペイン語の授業を担当しております。社会運動について、特に社会運動が政治変動や政策形成にどのように影響を及ぼすのかという観点から、ラテンアメリカ地域を対象に研究しています。二〇〇九年四月に文科一類に入学して以来、十三年目の駒場となりますが、様々な偶然の結びつきの上に今があるのだと実感しています。
 大学入学で地方から上京して早々に、将来の見え方の具体性や、見えている選択肢の多さがクラスメイトとまるで違うことに引け目を感じてしまい、そうした感情はクラスメイトとともに法学部に進学すべきなのかという悩みへと変わっていました。進振り希望を出す時期に差しかかる大学二年の春、当時南米コロンビアに住んでいた知り合いが社交辞令で言った「遊びに来なよ」を真に受けて行ったコロンビアで強く心を揺さぶられたまま、進振りで教養学部教養学科地域文化研究分科ラテンアメリカ研究コース(通称中南米科)を選びました。クラスメイトとの関係性が違っていれば、コロンビア在住の知り合いの一言がなければ、実際に行っていなければ、また違った道を選んでいただろうと思います。
 社会運動というテーマについて関心を持ったのは高校時代のことでした。生徒会の役員をしており、昔母校で行われた学生運動の資料に触れる機会が多々ありました。大学に入っても、図書館に入っている六〇年代の学生運動関連の本には大方目を通していました。一方で、中南米科に入ったからには留学したいと意気込んでいた私は、二〇一二年、学部四年の時にチリに留学することにしました。そこで目の当たりにしたのが、高等教育無償化を求める大規模な学生運動でした。授業がストライキで中止になることもありましたし、数十万人規模のデモの場に行って写真を撮ったり、話を聞いたりする機会を得ました。こうしてラテンアメリカと社会運動という、現在の研究の軸となる二つが出会ったわけです。今でこそスペイン語圏の留学先にはチリ以外の国もありますが、当時はチリだけだったため、もし当時別の留学先が選べていたら、またチリで実際に社会運動を目の当たりにすることがなければ、このような結びつきは果たしてあっただろうかと考えます。
 場当たり的に人生を生きてきたかのように見えなくもないですが、ある時点での、どの人とのどういった出会いが、あるいはどういった経験が、後にどこでどのように結びつき、将来の自分を形成するかということは全て予測がつくものではないですし、また予測がつかないことを半ば楽しみながらこれまで生きてきたように思います。着任後の出会いや経験が、過去のどういった出会いや経験と結びつき、また将来の出会いや経験といかに結びついていくのか、楽しみでなりません。そして授業を担当するスペイン語のクラスの皆さんにとって、私の授業がそういった偶然の結びつきの一つになれば幸いだと感じています。

(地域文化研究/スペイン語)

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