HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報629号(2021年7月 1日)

教養学部報

第629号 外部公開

<時に沿って> 駒場の1年生

堀 裕亮

 二〇二一年四月一日付けで、総合文化研究科・広域科学専攻・認知行動科学講座に助教として着任いたしました、堀 裕亮(ほり ゆうすけ)と申します。東大の所属となるのは、今回が初めてです。前任校は京都大学で、大学に入学してからおよそ十六年(学部生→大学院生→学振研究員→教務補佐員→助教)という長い時間を京都で過ごしました(でも、出身は山形県なので、京都人ではありません。〝いけず〟でもないと思います)。東大も、東京で生活するのも今回が初めてです。そういう意味では、上京して駒場に通い始めた一年生の皆さんと同じです。とはいえ、学生の皆さんと同じ気分でもいられないので、早く馴染めるよう、精一杯努めていきたいと思います。
 私の専門は、行動遺伝学です。私たち一人ひとりが、見た目も性格も異なる人間であるように、同じ種の動物であっても個体ごとに様々な個性があります。その個性、中でも特に行動面での個体差はどのようにして生み出されるのか、というのが研究上の大きな問いです。個性を生み出す要因は複数考えられますが、私はその中でも遺伝子の塩基配列の個体差、すなわち遺伝子多型に着目して研究してきました。動物の中でも、ヒトと親密な関係を築く伴侶動物である、ウマとイヌを対象にしてきました。方法としては、まずたくさんの個体からDNAサンプル(血液、口内粘膜、体毛など)を集めます。脳での神経伝達やホルモン伝達に関連する遺伝子の塩基配列を決定し、多型のある場所を探します。それと同時に個体の行動の特徴を、質問紙調査や行動テストを利用して評定します。遺伝子型のデータと、行動特性のデータが揃ったら、その間の相関を分析します。これまでに競走馬の育成時の扱いやすさや、イヌがどれだけ飼い主の顔を見るかなどに関して研究を実施しました。また、候補遺伝子の対立遺伝子頻度の品種差に関する研究も実施しました。その過程で、茨城県笠間市にある東大附属牧場にデータ収集のご協力をいただいたこともあります。現在は、日本在来馬の一種である北海道和種馬(いわゆる、〝どさんこ〟)を対象にして、遺伝子型や離乳前の母親との関係性などといった変数から、仔ウマの行動特性を予測するモデルを構築する研究に取り組んでいます。
 余談ですが、〝駒場〟は〝ウマがいる場所〟という意味なので、ウマの研究者としては勤務地が駒場というのは語呂が良くていいかなと思っていたりもします。実際には駒場キャンパスにはウマはいないようですが...。
 この文章を書いている時点で、着任からおよそ一週間が経ちました。新しい土地、新しい職場で年度はじめの慌ただしい時期を迎え、その上コロナ禍がいつ終わるかの見通しも立たず、正直少し不安もあります。でも、そんな中でもキャンパス内にたくさん並んだ部活・サークルのタテカンや、楽しそうにしている学生さんたちの姿を見ると、少しホッとする気分にもなります。駒場の〝一年生〟として、新たな環境を楽しみながら職務にあたっていければと思います。

(生命環境科学/心理・教育学)

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