HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報630号(2021年10月 1日)

教養学部報

第630号 外部公開

<時に沿って> 宇宙に夢を馳せて

日比谷由紀

image630_4_2.jpg 令和三年六月に総合文化研究科・広域科学専攻・希ガス同位体宇宙地球化学研究室(角野研)の助教として着任いたしました、日比谷由紀(ひびや ゆき)です。私の専門は「宇宙化学」で、空から度々地球に落ちてくる隕石の鉱物観察/同位体比・化学分析を通して、太陽系や地球の物質科学的/化学的な成り立ちを研究しています。 私は、幼少の頃、児童伝記シリーズを読破する程「伝記」を読むことが大好きでした。その中でガリレオ・ガリレイの伝記を読んでいた時、「地球は一日に一回自転し、太陽を中心として公転している」という事実に子供ながら衝撃を受けたことが惑星科学への興味の第一歩だったように思います。その後、中高に進んでからは、宇宙において地球や惑星がどのようにして誕生して進化してきたのかという疑問を密かにもち続けていましたが、高校では地学が隅に追いやられているような状態で、宇宙化学という学問の存在も知ることのないまま、東北大学の理学部に進学しました。そこで、めぐりあったのが、学部二年生の時にできた初期太陽系進化学研究室でした。初期太陽系進化学は、現在から約四十六億年も昔に遡る誕生間もない太陽系の進化を、現在地球に落下してくる隕石の分析をもとに解き明かすという、まさに私が高校生の頃に漠然と興味をもっていた研究分野でした。卒業研究では、隕石の加熱実験と化学分析によりC型小惑星の含水量推定を行い、「課題を設定し、先生や仲間と議論しつつ、その課題を達成する喜び」を実感しました。
 その後、進学した東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻での博士研究では、惑星物質を対象とした高精度クロム/チタン安定同位体比分析手法の開発を行いましたが、約一年半の間およそ三〇〇回以上も化学分離作業(一回あたり一~二日がかりの作業です)による元素抽出に失敗し続けるという研究のスランプを経験しました。それでも宇宙化学研究への情熱が冷めることなく、茨の道を茨とあまり認識せずに突き進み、新手法を確立することができました。(ちなみに、その後、映画キュリー夫人(一九四三年、 米国)を見た際に、五六七七回もの分離作業を繰り返してラジウムを抽出したというセリフが出てきて桁の違いに愕然としました)。この分析法も、現在では一部が「はやぶさ2」計画の初期分析に用いられ、海外からも共同研究の声がかかるまでの手法となり、当時の失敗の連続も今となっては良い思い出です。最新の研究では、隕石のニオブ─ジルコニウム年代測定から、自身が発見した原始惑星系円盤における短寿命核種ニオブ─92の不均質分布の検証を進めています。
 私は現在まで、子供の頃からの日常的な疑問や興味をずっと探求しているという感覚で研究の世界に身を置いてきました。今後も、世界トップレベルの希ガス質量分析技術をもつ本研究室で、宇宙惑星科学における未解決な難題に果敢に挑戦し、この分野の発展に貢献していきたいと思っています。また、ここ駒場では多くの意欲的な学生が将来の道を探索していると思います。将来の研究仲間が一人でも増えてくれるように、教育にも力を入れていきたいと思っています。

(広域システム科学/化学)

第630号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報