HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報632号(2021年12月 1日)

教養学部報

第632号 外部公開

オンライン授業でのアクティブラーニング

中澤明子・伊勢坊綾・中村長史

image632_01_1.png 教養教育高度化機構アクティブラーニング部門は、アクティブラーニングを採り入れた教養教育を教育工学の視点から支援することを目的として、17号館KALS(駒場アクティブラーニングスタジオ)での授業支援やアクティブラーニングに関する情報発信、教員・TA向けイベントの開催、アクティブラーニング手法の試行とモデル開発などを行っている。コロナ禍で始まったオンライン授業についてもアクティブラーニング手法の導入や情報を発信している。
 二〇二一年度Sセメスターの当部門開講授業で取り入れたアクティブラーニング手法を表にまとめた。授業をふり返り学生とのコミュニケーションを活発にする大福帳から、ペアワークやグループディスカッションといった学生どうしの議論、理解を深めるためのジグソー法、学生が国連加盟国の政府代表になりきって交渉や投票をする模擬国連まで様々な手法を取り入れた。手法の詳細は、当部門ウェブサイト(https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/)やニュースレター、『東京大学のアクティブラーニング』(東京大学出版会、二〇二一年)をご覧いただければと思う。ここでは学生や教員の立場からの反応をいくつか紹介したい。
 まず、大福帳についてである。提出の手間や操作性の課題があった一方、「授業が終わったらそのままのような状態がなく、必ず一回振り返りをする機会があったのはすごく良かった」、「全体の授業内で発言するのがあまり得意でなく、大福帳で先生とやりとりができたのはとても良かった」等の学生の感想があり、ふり返りや教員とのやり取りに役立っていたようである。教員の立場から感想を述べると、オンライン授業における学生とのコミュニケーションや、学生の疑問・理解度の把握において大福帳は大変有用であった。
 次に、ジグソー法についてである。対面授業でジグソー法を導入する際、エキスパート活動、元のグループに戻っての活動と二度移動する必要があり、時間を要する。しかし、オンライン授業ではブレイクアウトルームへの移動時間を教員が管理することが可能となり、時間を効率的に使うことができると感じる。ジグソー法を導入した資料の理解や知識の共有は、オンライン授業でも対面授業でも変わらない活動が可能であり、オンライン授業でも十分に導入価値があると思われた。
 さらに、模擬国連についてである。教員としては、当初、交渉や投票をオンラインで行うのは臨場感に欠け、ロールプレイが難しくなるのではないかと懸念していた。しかし、受講者からは「自分の担当国だけではなく他国についても調べないと、交渉材料がなく、議論を優位に進めることができないので、自然と勉強した」、「どの部分を妥協して、どの部分を妥協しないかを考えるため、交渉において優先順位が重要であることが学べた」といった感想があり、国際関係の知識や合意形成の技能の習得に役立っていたことがうかがえる。模擬国連のような大掛かりなアクティブラーニングであっても、教員と学生の工夫によってオンライン授業でも学習効果をあげることが可能であると再確認した次第である。
 オンライン授業でのアクティブラーニングを検討して改めて感じたことがある。それは、オンライン授業であっても対面授業であっても、授業において大切なことは変わらないことである。つまり、学習目標に基づいた授業設計、学生との双方向性の確保、授業運営などの基礎は同じである。また、オンライン授業でも対面授業でも、学習目標到達のためにアクティブラーニング手法を取り入れるのであり、それを行うこと自体が目的ではない。ただひたすら、学生の学びを促すためにどのような教え方・学び方がよいかを考える。
 オンライン授業というと、テクノロジーの習得に目を向けがちである。テクノロジーを使った授業には、テクノロジーの知識だけでなく教え方など教育学の知識が必要だと言われている。授業設計や授業運営といった基本に立ち返ってオンライン授業やアクティブラーニングについて考えることが大切である。ただ、オンライン授業のほうが時間管理や手順の説明、理解の把握など、より綿密な授業設計・運営が求められる。そのようなオンライン授業の経験を対面授業でも活かせれば、きっとこれまで以上に高い学習効果を得られるであろう。対面授業におけるテクノロジーの活用も変化するかもしれない。そんなポスト・コロナの状況に思いを馳せつつ、オンライン授業でのアクティブラーニングについて、教員向けワークショップ等を通じて引き続き情報発信していきたい。

(教養教育高度化機構)

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