HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報632号(2021年12月 1日)

教養学部報

第632号 外部公開

<送る言葉> 山口和紀先生をおくる

金子知適

 山口和紀教授は、広く情報分野の研究と教育に長年ご尽力されました。副研究科長、広域科学専攻長など駒場の役職に加えて、情報基盤センター、数理情報教育センターなど全学組織やさらに学外でも要職を務められました。筆者は学生として教わったのちに同じ職場に勤めた立場から、山口和紀先生をご紹介いたします。
 前期課程の学生の方には実感が難しいかもしれませんが、山口先生が駒場に着任され情報教育を推進された一九九〇年代に、インターネットなど情報技術が急速に発展しました。駒場でも情報教育棟南棟(現情報教育棟)が建設され、情報教育棟北棟(現17号館)ら機材が一新されました。全学生がウェブを見られるようになったのはこの時からです。授業も情報処理から情報に発展し、全学的な支援で多くの教員が、前期課程の新入生全員に教える形態になりました。山口先生は当初からカリキュラム作成や運営の中心的な立場を務め、最新の教科書『情報第二版』も編纂されています。めざましい技術発展と社会の変化により常に改訂が求められる中、核となる項目を選別して量を絞り、初学者に寄り添う方針で進められました。
 山口先生は、筆者が学生の頃から、The UNIX Super Textや情報処理入門(補遺)の著者として著名でした。直接お会いしたのは後期課程基礎科学科第二(現学際科学科)に進学したときで、授業での丁寧な説明が印象に残っています。
 卒研生や大学院生の指導では、「モデル化」を共通点にさまざまな研究テーマで学生を受け入れ、多数の優秀な人材を育てられました。教員がテーマを指示するのではなく学生の興味に沿って研究を進めることは、教員の側に幅広い知識と指導力が必要です。実際に指導する立場になりその難しさがより実感されます。
 授業や研究以外でも、様々な事例で親身に対応くださりました。先生が運営にも携わった情報教育棟では、建物内機器管理のために原則飲食禁止ですが、各階の廊下の一部に水を飲む区域が設けられています。これには、東日本大震災以来の節電を重視する学部の方針でエアコンの運転に制限があり、夏場の教室はとても暑くなりうるという背景があります。暑い日は水分補給が必須ですが、諸規則を総合すると、四階の教室を使う学生は一階まで降りて建物の外で水を飲み、(エレベータも原則使用禁止のため)階段でまた教室に戻る必要がありました。教室よりさらに暑い階段の往復は大きな負担で、それを避けるための先生のご配慮でした。
 国立大学法人に移行した二〇〇四年以降、節電以外にも、教育現場は困難な状況でした。政府予算が短期プロジェクトに傾き、本学でもこれまで基本予算や教員数が毎年2%づつ削減を強いられてきたためです。この間に重職を務めた山口先生が多数の困難に直面されたことは間違いありません。守っていただいた体制を維持し、より良い教育研究ができるよう発展させてゆくことが、残る教員の勤めと考えております。
 長い間、本当にありがとうございました。

(広域システム科学/情報・図形)

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