HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報632号(2021年12月 1日)

教養学部報

第632号 外部公開

<送る言葉> 中尾まさみ先生を送る

高橋英海

 いつだったかの教授会で中尾先生が発言された後のことである。発言を聞いていた他部会の教員と話していて、「中尾先生って、かっこいいっすよね」と言われた。中尾先生には失礼だが、専攻、部会とも同じで身近な存在だったこともあり、あまりそのように考えたことはなかったのだが、これを聞いて、あるいは、実はかっこいい方なのかもしれないと思い始めた。
 中尾先生が駒場に着任されたのは一九九六年、いまから二五年余り前になる。この記事を書くに当たって、着任時の「時に沿って」を入手した。そこには先生がエディンバラ大学への留学を通じてケルト圏の英文学に関心を持った経緯が記され、やや自信なさげにも見える、上品そうな若手教員の写真が添えられているが、ここにはまだ「かっこいい」という形容詞は当てはまらないかもしれない。
 私が着任した頃には、中尾先生はすでに専攻、部会のいずれでも中堅の教員として活躍されていた。その少し後には、専攻の総務委員としててきぱきと仕事をこなしておられた姿が記憶にある。さらに数年後の二〇一二年度から二〇一四年度まで、中尾先生が英語部会の主任をされたときに、主任補佐として一緒に仕事をさせていただいた。
 三年間、一緒に仕事をさせていただいて記憶に残るのは、部会の教員や学生たちのことを本気で気遣う先生の姿である。私のような怠け者にもつねに優しく接していただいた。私がやるべき仕事をさぼっていたときにいただいた、雪だるまの絵の脇に「冬休みのしゅくだい」と書かれた付箋紙はいまでも研究室のパソコンに貼ってある。
 もっとも、英語部会のような組織を動かすのには優しいだけでは足りない。もう少し上の世代の先輩方ほどではないかもしれないが、中尾先生も脅しすかして人を動かす術は心得ていた。私自身も補佐になるときに、「補佐がいいですか、それとも〇〇がいいですか」という地獄の選択を迫られた。必要なときには毅然とした態度で物事に臨む中尾先生の姿はいまから考えるとかっこよかった。
 中尾先生が部会主任をされた三年間は、駒場の英語科目が大きく変わった時期でもある。二〇一三年にはALESSに加えてALESAが始動し、二〇一五年に実施されたカリキュラム改革では「教養英語」、「総合科目L」、「FLOW」といった授業が導入された。これらの改革を実現できた背後には、中尾先生の綿密な調査や計画と部会内の合意を形成するための根気強い協議があった。そのような場でリーダーシップを発揮する中尾先生の姿は、いま考えるとたしかにかっこよかった。
 部会主任の任期を終えた後も、発足して間もないグローバルコミュニケーション研究センターのセンター長として新たな組織の形成に尽力され、最近では、大学入試への外部試験導入についての問題提起をする場で活躍されていたが、いずれの場でも丁寧に準備された言葉で語る姿が記憶に残る。
 仕事をしているときの姿との間にギャップがあるのが、カラオケで「飾りじゃないのよ涙は、ハッハー」と歌う中尾先生だが、これもまた元の歌手の姿と相まってかっこよく思い出される。
 そのようなかっこいい先輩が駒場を去られるのは、寂しく、心細いかぎりだが、少しでもその姿に近づけるよう努力することを心に誓うとともに、先生の今後の益々のご活躍をお祈りする。

(地域文化研究/英語)

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