HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報633号(2022年1月 5日)

教養学部報

第633号 外部公開

<送る言葉> 短くて長かった25年間

矢田部修一

 中澤さんが駒場に赴任されてからもうすぐ二十五年が経とうとしているということに、信じがたいという思いを抱いております。光陰矢の如しという言葉の通りだと感じるのですが、他方では、時間というのはそんなにはやく過ぎ去るものではありえない、はやく過ぎ去ったように感じるのは、長年の間に生起した多種多様な出来事の多くを一時的に忘れてしまっているために生じる錯覚に過ぎない、とも考えます。
 実際、中澤さんが一九九七年にNTT情報通信処理研究所から駒場へ移られて以来の二十五年弱の間に起きたことを改めて思い起こしてみれば、それが短い期間であったはずはないことがわかります。
 この二十五年間は、言語学においては研究内容の多様化・細分化が進み、それまで以上に多くの問題に関して新奇なアプローチが試みられた期間であったとともに、言語事実に関する着実な観察・分析が積み重ねられた時期でもありました。中澤さんの仕事は、主に、後者の、具体的な言語事実に関して堅実な理論を構築するという方向性のものであると言ってよいと思うのですが、そのようなタイプの研究の進展の結果として、最近、多様化・細分化の果てに多少バラバラになってしまったようにも感じられる言語学内の諸々の「学派」が再び統合されていくことが可能になりつつあります。そのような重要な時期に中澤さんが駒場を去られるのは大変に残念なことですが、ドイツ語・日本語などに関する中澤さんの仕事の成果は、今成立しつつある統一的な言語理論の内実に確実に影響を及ぼし続けるものと思います。
 NTTの研究所から駒場へ移ってきていただいたときに、NTTにおける中澤さんの上司であった方と談判をしたのですが、その時にその方が、中澤さんにとっては駒場の言語情報科学専攻よりもNTTの研究所のような純粋に理系的な場所のほうが望ましい環境であるはずだ、と力説されていたことを思い出します。そんなはずはない、と我々は反論したわけですが、さて、我々の考えが正しかった、と中澤さんには今でも納得していただけているのかどうか、多少気がかりです。
 中澤さんが二十五年の間に達成されたことは言語学における研究成果だけではありません。この二十五年間は、駒場キャンパスが特に大きく変貌した時期であり、当キャンパスにおける外国語教育のあり方も一九九七年と今とでは様変わりしています。その様変わりの中身を決めていったのはもちろん中澤さんだけではないわけですが、中澤さんの見識・指導力によって牽引されていった局面が何度もありました。中澤さんは、駒場キャンパスに関して知らないことはない方で、キャンパス内に自生している食用植物の効率的な採取者という意外な側面さえお持ちの方です。今後も駒場のことを気にかけ続けていただけたらと思っています。

(言語情報科学/英語)

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