HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報633号(2022年1月 5日)

教養学部報

第633号 外部公開

<時に沿って> 駒場にあるかもしれない好機

山田貴富

 二〇二一年九月一日付けで広域科学専攻生命環境科学系の講師に着任しました山田貴富と申します。教養学部前期課程の講義としては、Aセメスターに理科二、三類一年生向けの生命科学Ⅱを担当しております。私は二〇一〇年前後の七年間、同じ所属の助教として基礎生命科学実験という実習を教えておりました。その後、中央大学での五年間の勤務を経て、二年半前からまた駒場に戻って教育・研究に携わっていたところで、今回の着任となった次第です。出身は理科二類ですので、教養学部生時代、助教時代、そして現在で三回目の駒場在籍になります。
 この「時に沿って」への寄稿も助教着任時に続いての二回目で、一回目は私のそれまでの経歴について述べました。前回執筆時から十年以上の時が経ちましたので、その間に経験したこと、感じたことに関して書いてみます。
 学部四年生から現在に至るまで、私の専門研究分野は分子生物学というもので、生命現象を分子レベルで理解することを目指すものです。進学先が分子生物学に重きを置く理学部の学科だったこともあり、助教になるまで生物学の他分野に接することはほとんどありませんでした。それが駒場の助教になってみると、進化学や生態学を専門とする先輩・同僚教員が多く、折に触れて聞く進化や生態の話に非常に興味を持ちました。さらに中大時代には進化・生態学の野外実習に参加させてもらい、学生さんと一緒に植物化石を採集したり植生を観察したりするという経験もしました。この実習の時に自分で撮った写真の何枚かは、私が今学期担当している講義(生態学の初歩を取り上げる回もあります)で使っています。
 話は少し変わります。駒場で生命科学の講義を担当していてよく聞く声が、大学受験で生物を選択しなかったので生命科学の講義が難しい、というものです。入試で化学と生物を選択した私にも似た経験があります。私は高校二年まで物理を履修しており、その時は物理に対する苦手意識もなかったのですが、大学の物理(当時は入試時の物理選択者、非選択者とも共通の授業でした)は難解でした。講義内容を理解するのに精一杯で、物理学を楽しむ余裕はありませんでした。生物学の研究者になった今、当時のことはあまり思い出しませんが、自分の研究のアイデアにもう少し物理的な感覚が欲しいな、と思うことが往々にしてあります。
 以上の二つは、締め切りを目前にして原稿を書き始めた私に思い浮かんだエピソードにすぎず、ここから教訓とかメッセージなどというつもりは全くありません。ただ、新しいことを知ること自体に、その知識が役に立つかどうかはさておき、無意識のうちに視野が広がる意味があるのかな、と思います。ちょうど駒場にはさまざまな学問に接するチャンスがあります。

(生命環境科学/生物)

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