HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報633号(2022年1月 5日)

教養学部報

第633号 外部公開

<時に沿って> 研究と対話

阿部 司

image632_05_2.jpg 二〇二一年九月に広域科学専攻相関基礎科学系の助教に着任しました阿部司(あべつかさ)です。私はこれまで大阪大学で博士の学位を取得、九州大学でポスドク、再び大阪大学で特任助教と、西日本で過ごしてきました。駒場キャンパスにはこれまで学会なども含めて一度も来たことがなく、生まれて初めてこの地に足を踏み入れたので、新鮮な気持ちで毎日通勤しています。
 私は、金属イオンと有機分子が配位結合を形成して出来る「錯体」を研究しています。配位結合は、化学結合の中でも強すぎず弱すぎず、絶妙であるが故に面白い性質を示します。配位結合を適切に利用することによって色が変化したり、磁石の性質を示したり、化学反応が進行し別の物質を作ることができます。多岐にわたる錯体の性質をどう引き出すかは、我々の技量であり、自由度の高さこそ錯体化学の魅力の一つだと思います。私は学生時にはフラスコ内で、またポスドク時にはコンピュータの中で錯体を作って、それらの性質を調べる研究をしてきました。いわゆる実験と理論研究を両方経験して参りました。
 これらの研究では結論の導き方に違いがあります。実験研究では複数の個別事象に対してデータを収集し、それらをもとに一般法則を導き出す、いわゆる帰納的方法です。一方理論研究では一般法則をもとに、個別の事象に当てはめ結論を導き出す、いわゆる演繹的方法です。結論の導き方が真逆なので、身につけるのにとても苦労しましたが、どちらも大切な思考法であると思います。昨今、実験研究者と理論研究者の共同研究論文がよく見受けられます。異分野の研究者がコラボして研究を進めると聞くと、響きはかっこいいですが実際には大変なことも多いと思います。特にどう折り合いをつけるかは自分の研究グループだけで研究を進めるよりも難しく、暗礁に乗り上げることもしばしばです。使っている専門用語や思考法が異なっていることが原因の一つと考えられます。双方の求めるものを理解できる人がいれば、分野間同士の溝を小さくできます。交渉人は巧みな話術で双方が満足できる妥協点を探し出すことに長けています。研究においても交渉人が必要な場面に遭遇することがあると感じています。
 研究者は口数少なく一人黙々と、というイメージをお持ちの方もおられるかと思いますが、上述したように研究者同士の対話は非常に大事です。私もお喋りが大好きです。人と話している時に自分の考えが洗練されることもあります。名は体を表すということわざがありますが、私の氏名には「口」が三つも入っていることに最近気づきました。駒場には言うまでもなく素晴らしい学生・研究者の方々がたくさんいらっしゃいます。皆様と交流させていただく機会が訪れることを楽しみにしております。アカデミックの雰囲気漂う駒場キャンパスで研究および教育できることを誇りに思います。どうぞよろしくお願いします。

(相関基礎科学/化学)

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