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教養学部報

第634号 外部公開

<送る言葉> 松原宏先生を送る

鎌倉夏来

 松原先生ご自身の経歴については、先生がご自分で語られるのでは? と思い、ここでは学部生の頃から見てきた松原先生について記し、送る言葉としたい。
 松原先生との出会いは、私が学部一年生の頃に受講した「人間生態学」の講義であった。今思えば、この講義については、試験で記述した内容も記憶している。その頃の私は、人文地理分科(当時)を志望していたものの、経済地理学に関心があったわけではなかったため、この講義が当該分野に興味を持つきっかけとなった。人文地理分科に進学すると、最初の実習の担当が松原先生であった。初めての現地調査は何もかも新鮮であったが、松原先生の「タフ」な姿もよく覚えている。濱田総長時代の標語と重なるが、他に当てはまるものが思いつきそうもないほど、その印象が強い。二〇歳前後の学生たちと深夜までゼミやおしゃべりに勤しみつつ、翌日は涼しい顔で朝食をとり、足早にフィールドを駆け抜けながら調査をする先生の姿は、私にとって研究者のイメージを変えるものであった。
 学部の卒業論文からは、松原先生に指導教員になっていただき、そこから博士課程に至るまでご指導いただいた。この間、多くの調査や国内外の学会でご一緒した。特に思い出されるのは、連日暑い日が続いた三重県での調査である。非常に密なスケジュールで移動も多かったが、先生は、相変わらずの早足で工場を駆け抜けながら、周囲が暗くなるまで質問を繰り広げ、私は後ろで必死にメモを取っていた。そうした調査を終えた帰りの新幹線では、その調査とは直接関係のない、私の博士論文の指導をしていただいた。当時は申し訳ないことに、「疲れた...頭が回らない...」と思ったりもしていたが、寸暇を惜しんで学生指導をする姿勢には、教員となった現在、ありがたみを感じる。
 大学院修了後は、人文地理学教室の助教として、二〇二〇年度からは松原先生が立ち上げられた地域未来社会連携研究機構の准教授として、引き続き一緒にお仕事をさせていただいている。機構長として短期間で多くの外部機関、自治体と連携協定を結んできたこと、複数のサテライトを設置したこと、教育プログラムを立ち上げたことからも、先生の活動量の多さが伺える。数人分のご活躍をなさる先生がいなくなられるのは大変心許ないが、どうにか引き継いでいかなければと思っている。
 ところで、私は十月半ばより産休をいただいており、Aセメスターに担当予定であった講義のほとんどを、松原先生に急遽代わっていただいた。定年の年までお世話になりっぱなしであることには、かなり恐縮している。ただ、妊娠が分かった際、すぐに代講を申し出てくださったことが、どれだけ心強かったか。学内外の業務でお忙しいのにも関わらず、コロナ禍の妊婦を慮るお言葉に甘え、他大学での集中講義まで代わっていただいたことにも、心から感謝している。
 このように、最後の最後まで、松原先生の活動的な姿勢の恩恵を受けてきた。今後も、いつも驚かされてきた「タフさ」を遺憾なく発揮する先生で居続けてくださることを、切に願っている。

(広域システム科学/人文地理学)

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