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教養学部報

第634号 外部公開

<送る言葉> アラユルコトヲ (ロジャー・ロビンス先生を送る言葉)

矢田部修一

 ロビンスさんには、何となく宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の冒頭部分を連想させるところがあります。「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ ... アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ」というあれです。身体的にも精神的にも疲れを知らないという感じのロビンスさんが定年退職されるということに、一抹の不条理を感じざるを得ません。(「雨ニモマケズ」の後半はロビンスさんのイメージからかなり外れています。日照りの時にはロビンスさんはすみやかにスプリンクラーを設置しそうです。)
 私は歴史家でも宗教学者でもないので、キリスト教のペンテコステ派の歴史・現状、そして政治との関係に関するロビンスさんの研究のことをよくわかっているわけではありませんが、研究されている内容が、現代の多くの人に直接関わるものであることは理解できるように思います。ペンテコステ派というのは米国で創始された宗派ですが、米国の政治だけではなく最近ではオーストラリアの政治などにも影響を及ぼしているので、世の中の行く末がどうなるのかを気にする人ならば、これがどのような歴史を持つどのような宗派なのかということに興味を持たざるを得ないと思いますし、また、政治への影響というような外的な要因を度外視するとしても、多くの人にとって関心を抱きやすい対象であると思います。
 ロビンスさんは私と同じく駒場の英語部会のメンバーで、前期課程では英語教育に携わってこられました。英語で書かれた文章を修正して利用する作業をご一緒させていただいたことがあるのですが、その際に、原文の微妙に論理的に首尾一貫していない点を徹底的に問題視して修正しようとするロビンスさんの姿勢に強い印象を受けました。単に、筋の通ったことを筆者が考えていることを文章の内容から読み取れる、そういうレベルを超えて、実際に文章自体の論理の筋が完璧に通っている状態を目指す、ということの重要性を教えていただいたと思っています。
 さて、ロビンスさんは私にとって、職場の同僚であるだけでなく、同じ地域コミュニティーに属するご近所さんでもあります。ロビンスさんはご自宅周辺の公共の場所でもしばしば一人で草刈りなどをしてくださっていて、さらには、相当に暑い季節の日曜日の朝だったかと思いますが、キャンパスの18号館周辺で一人で草刈りをしてくださっていたことさえありました。ご近所で蚊を駆除するために奥さんとともに色々と調査をし、対策を進めるための音頭を取ってくださったうえ、効果的に区役所への働きかけをしてくださったこともありました。本当にどうもありがとうございました。そういった一つ一つのこともロビンスさんが私に「雨ニモマケズ」の冒頭部分を連想させる一因となっています。

(言語情報科学/英語)

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