HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報634号()

教養学部報

第634号 外部公開

変わるものと変わらぬもの

酒井哲哉

 このほど、東京大学出版会から、駒場70年史編集委員会編『駒場の70年 1949―2020―法人化以降の大学像を求めて』を上梓することとなった。駒場には既に、『教養学部の三十年:1949~1979』及び『駒場の五十年:1949―2000』という書物があるが、本書はその続編として、ここ20年間の駒場のできごとを回想するものとなる。刊行にあたり、委員長として、本書が編まれるに至った経緯や、編集に際して留意したことなどを簡単に記しておきたい。          提供 東京大学出版会image634_09_1.jpg
 2019年9月末に、研究科長補佐をされていた津田浩司准教授から、教養学部設立70周年企画の一環として、駒場の70年史を編集するようにとの依頼があった。30年近く駒場に籍を置く者としては断れる筋合いはなく、即座にお引き受けした。幸い、津田准教授の後任として新たに補佐職につかれた鶴見太郎准教授が副委員長として全面的に協力してくださることになり、70年史の編集委員会が立ち上がることになった。
 編集にあたっては、この20年間の変化だけではなく、変わらない駒場の日常も描きたい、と考えた。確かに、私が赴任してから、大学院重点化や法人化などで駒場の雰囲気は激変し、多くの組織改革がなされた。そうした改革の経緯や、それによって生じた変化を記載することは、無論重要である。しかし、それと同時に、優秀な学生をあずかる駒場の教育のありかたや、論文の執筆などを通して第一線の研究活動を維持しようという先生方の日々の努力は、そんなに昔と変わらないのでないか、というよりは、簡単に変わってはいけないのではないか、という思いもあった。
 そこで、変わるものと変わらぬものをバランスよく記述するような構成・執筆者を考えた。駒場の構成員にはそれぞれの大学の理想像があるに違いないので、複数の大学像が競合する様を正確に捉えるためにも、できる限りいろいろな部署・立場の方を網羅することを心掛けた。東京大学の正史ともいうべき『東京大学百年史』でも、その部局史に収録された教養学部の記述は相当自由な筆で描かれている。練達の書き手を擁する駒場の70年史だから、きっと読み物としても面白いものができるだろうと期待された。
 こうして編集方針も定まり、執筆者への依頼を開始した頃から、世の中はコロナ禍一色になり、教授会で執筆依頼者にご挨拶をすることも、編集委員同士が大学で集まって相談することも難しい状況になった。資料の利用もままならぬなかの作業で、執筆者には大変な労を強いることになってしまったことをこの場を借りてお詫びしたい。幸い、ほとんどの方が締め切りを守ってくださり、いただいた原稿も充実した内容ばかりだった。何よりも、私自身駒場で長く暮らしながら、実に知らない事ばかりなのだなあと感嘆させられることが多かった。
 出版に際しては、東京大学出版会の山田秀樹さんにプロの編集者の立場からきめ細かなご助言をいただいた。また、思いもかけないコロナ禍のオンライン授業対応に奔走された副委員長の鶴見准教授には、何重もの負担をおかけする結果になってしまい、誠に申し訳ないと思っている。委員長としては無能で、なんだか各方面の方々にご迷惑をおかけするばかりだったような気がするが、私個人としては、定年退職直前に、駒場の構成員の有能さと誠実さをこの企画を通して再確認することができ、自分の駒場生活の中でもっとも印象に残る仕事の一つとなったことは幸せなことであった。
 これから先の駒場もさまざまな難局が待っているかもしれないが、きっとその都度いい知恵が出てきて、変わるものと変わらぬものとの絶妙のバランスが取れていくのであろう。本書がこれからの駒場の構成員にとって、知恵の引き出しになることを願っている。

(国際社会科学/国際関係)

第634号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報