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教養学部報

第634号 外部公開

つながるかたち

舘 知宏

 駒場博物館にて「つながるかたち展CONNEC­TING ARTIFACTS 01」(二〇二一年九月十八日~十一月二十八日)が開催されました。この展示では、「野老」「個と群」「図法力学」「オリガミ」の四つの章を通して、かたちをつくる行為を鍵としたアート・サイエンス協働を紹介しました。
 この展示の発端は、私と美術家の野老朝雄さんとの協働にあります。野老さんは、シンプルな幾何形状を距離や角度の制約に沿って並べ、紋、紋様、空間構造を構成します。この原理を野老さんは「個と群」と呼んでいます。例えば、野老さんが手がけた東京2020エンブレム『組市松紋』は、三種類の菱形が隙間なく平面を充填する幾何学にもとづいて構成されており、この構成の幾何的構造によって秩序を持ちつつも多様なバリエーションを持つ紋様群が形作られます(オリンピックで539,968通り、パラリンピックで3,357,270通り)。
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野老朝雄「RHOMBUS STUDY」写真:Choku Kimura

 一方で、私の専門とする「オリガミ」は一枚の連続なシートを折り線で分割することで、形状の万能性や変形の機能性を得る技です。ここでも分割された単位の持つ法則性が全体の挙動を決定づける「個と群」が現れます。「個と群」は美術や音楽などの芸術、建築や宇宙構造物、アルゴリズムやデータ構造、結晶や準結晶の原子配列、タンパク質の折りや自己集合、群れのふるまいなど、自然現象や人工物に普遍的にあらわれる考え方でもあります。私は計算幾何学や構造工学から、野老さんは美術からのアプローチで、このテーマに挑んでいます。image634_09_2.jpg
舘知宏、堀川淳一郎「内在的性質と外在的性質が異なる曲面」

 二〇一八年度より、前期課程の授業『個と群』を野老さんと協働で開講しています。この授業では、学生は実際に手を動かして「個と群」の創造プロセスを実践します。つくられたものはしばしば意図しない副産物(artifacts)となりますが、このような副産物を科学、情報、工学、芸術、数学など多様な視点で読み解き、分野を横断する「脱線」を繰り返しながら、最終的には、新しい紋様・構造・現象、時には新たな科学的な発見や問いが得られました。つくること、発見すること、問いを得ること、その問いを解くことの連鎖からは、学生が筆頭となる国際会議での発表など、新しい分野の開拓を予感させる動きにつながっています。展示では、身近な世界の観察や遊びから最先端の分野協働につながるワクワク感を共有することを目指しました。
 上記の授業は、二〇二一年度より文理融合ゼミナールの枠組みで開講されています。文理融合ゼミナールは、多様な芸術の実践から創造的プロセスを獲得し、様々な学問とのつながりを学ぶ科目群を提供し、教養前期課程におけるSTEAM(Science, Tech­nology, Engi­neering, Arts, Mathe­matics)教育を担っています。さらに興味のある学生に対して、最先端研究にさらされ、また発信する機会を提供する「研究入門」も二〇二二年度より開講されます。このような取り組みにご興味がある、教員、研究者、芸術家、学生の皆様、ぜひお声がけください。
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「個と群」学生作品(写真:Choku Kimura)。
上段:左から、島田楓、風祭覚、割鞘奏太、上條陽斗、下段:左から、増渕健太、西本清里、木島凪沙

(広域システム科学/情報・図形)

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