HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報635号(2022年4月 1日)

教養学部報

第635号 外部公開

まだまだ続く! 変な惑星探し

成田憲保

 新入生の皆さんは「系外惑星」という言葉をご存知だろうか? これは太陽以外の恒星を公転する惑星のことで、二〇二二年初めまでに四千九百個以上もの系外惑星が発見されている。今この分野では、新しい系外惑星が次々と発見され、新しい事実が明らかとなり、最新の知見が日々更新されている。系外惑星は、天文学の中で最もホットなテーマの一つとなっている。
 成田研究室では、この系外惑星の研究に取り組んでいる。特に現在は、NASAが二〇一八年に打ち上げたトランジット惑星探索衛星TESSという衛星計画に参加し、研究室で独自に開発したMuSCATシリーズという三台の観測装置を使って日々新しい惑星を探し、発見された惑星がどんな惑星なのかをハワイにあるすばる望遠鏡などを使って調べている。本稿では、そうした研究を通して二〇二一年度に当研究室からプレスリリースした二つの成果について紹介する。
 なお、本稿は教養学部報六二四号(二〇二一年一月発行)に掲載された「まだ見ぬ変な惑星を求めて」の続きとなっている。かいつまんで要約すると、前回はなぜ「変な惑星」を探しているのかと、白色矮星(太陽のような恒星が燃え尽きた後に残る天体)を周期一日あまりで公転する巨大惑星の発見について紹介した。前回の記事はウェブ上で公開されているので、よろしければご参照いただきたい。
 今回紹介するのは、赤色矮星(太陽よりも二千度以上表面温度が低い、低温度・低質量の小さな恒星)の周りで、公転周期が一日未満の大きな岩石惑星を発見したことと、水素大気の下の惑星表層に液体の水が存在する可能性を持つ惑星を発見したことの二つである。
 公転周期が一日未満の惑星は、この分野で超短周期惑星と呼ばれている。我々はMuSCATシリーズを使った二〇二〇年の観測で、地球の1.5倍と1.8倍ほどの大きさを持つ二つの超短周期惑星を赤色矮星の周りで発見した。地球の1.5倍から1.8倍というのはちょうど大きな岩石惑星(スーパーアース)と小さなガス惑星(サブネプチューン)の境目となる半径として知られており、これまでこの範囲の大きさの超短周期惑星は赤色矮星の周りで発見されていなかった。
 そこですばる望遠鏡を使ってこれらの惑星の質量を測定してみたところ、どちらも惑星の質量と半径の関係がちょうど地球組成と同じくらいであることがわかった。つまり、水素大気を持たない岩石主体の惑星と考えられる。特に、大きい方の惑星はこれまで見つかっていた超短周期惑星の中で最大の半径(約1.8地球半径)と最大の質量(約10地球質量)を持つことがわかった。
 このように大きな質量・半径を持つ岩石惑星が、超短周期の軌道にあるのはなぜだろうか? 恒星が誕生する時、その周りに固体物質と水素ガスからなる原始惑星系円盤ができ、その中で惑星が形成すると考えられている。周期一日未満の軌道では10地球質量もの固体物質は存在しないので、そんなに大きな質量の惑星は現在の軌道で形成することはできない。一方、遠くの軌道で形成してから超短周期の軌道に移動してきたとすると、10地球質量もの質量を持つ惑星は原始惑星系円盤にある水素ガスを大気として獲得してしまうはずである。すると、水素大気を持たないのは変である。
 この矛盾を解くためには、今回発見された超短周期惑星は、遠くで形成してから移動してきた後で、獲得した水素大気が恒星からの紫外線などによって剥ぎ取られ、岩石部分だけが残ったものと推測される。今回の発見は、赤色矮星周りでの超短周期惑星の形成メカニズムの知見をもたらした点で重要と言える。
 もう一つ紹介するのは、赤色矮星の周りを周期約27日で公転する1.7地球半径の惑星を発見したことである。地球に比べると公転周期が一桁も短いが、赤色矮星は太陽より低温度で小さいため、この惑星は地球が受け取る日射量の1.5倍程度の日射を受けている。金星が受け取る日射量は地球の約1.9倍なので、金星と地球の間くらいと思ってもらうと良いだろう。
 先に述べたように、1.7地球半径の惑星は大きな岩石惑星と小さなガス惑星の可能性がある。もしこれが岩石惑星だとすると、残念ながら金星のように表層の水が全て蒸発してしまうと考えられる。しかし、この惑星が薄い水素大気の下に深い水の層(海)を持つ小さなガス惑星だった場合、惑星の表層に液体の水が存在する可能性がある。このような惑星は水素(ハイドロジェン)と海(オーシャン)をくっつけた造語でハイシャン惑星とも呼ばれ、液体の水を保持しうる新しいタイプの生命居住可能惑星候補として最近注目されている。
 このように面白い惑星ではあるものの、まだこの惑星についてわかっていることは少ない。まず岩石惑星なのかハイシャン惑星なのかは、惑星の質量を調べてみないとわからない。そこで現在すばる望遠鏡などで質量を測定している。また、この惑星がどんな大気を持っているのかも興味深い研究テーマとなる。さらに、そもそもハイシャン惑星で生命が誕生できるのかという点は、学際的研究分野である「アストロバイオロジー」の新しい研究テーマとなるだろう。
 成田研究室では、さらなる変な惑星の発見に向けて今年度も研究を続けている。この最先端の研究に、一年生から参加することができる「アドバンスト理科・研究入門」を最後に紹介したい。
 二〇二一年度に新規開講したアドバンスト理科・研究入門は理系の基礎実験の単位互換科目であり、研究室で行われている最先端の研究テーマを題材とした実験的研究に取り組むことができる。成田研究室では一年生のAセメスターに開講される物理学の研究入門で若干名を受け入れている。系外惑星研究への強い関心と高い意欲のある新入生は、ぜひ受講を検討していただきたい。
 二〇二二年度からは二年生のSセメスターに生命科学、一年生のAセメスターに化学の研究入門も新規開講されるほか、アドバンスト理科には基礎科目と総合科目もあり、それぞれ各分野の若手トップ教員によるハイレベルで面白い授業が展開されている。各科目の詳細や受講方法については、先進科学研究機構のHP、アドバンスト理科のチラシ、UTASのシラバスなどをご覧いただきたい。

(広域システム科学/先進科学)

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