HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

〈後期課程案内〉教養学部 教養学科 自由の海を泳ぐ

教養学科長 梶谷真司

 教養学科長という立場でありながら、私には教養学科全体のことはよく分かりません。みなさんが進学しようとする学科やコースについての詳しいことは、HPを見たり、今月行われるガイダンスに行って話を聞いたりしてくれればいいので、ここでは細かい話はしません。その代わりに、教養学科に属する私から駒場がどのように見えているのかをお話ししましょう。そうすれば、おのずと教養学科についての紹介になると思います。
 そこでまずは自己紹介を―私の所属は超域文化科学分科の現代思想コース、専門は哲学、医療史、比較文化です。自分の専門はあくまで哲学だと思っていますが、周りからはあまりそう見えないことも多いようです。そのせいか、私のところには、指導を希望する学生がほとんど来ません。ある学生にそう言ったら、「先生からは何を学んだらいいか分からないんです」と言われました。なるほど!と得心しました。
 そもそも私自身、自分が何者かよく分かりません。世の中では、それはしばしば居心地の悪いことです。でも駒場には、そんな人間でも許容される気楽さ、自由さがあります。この「自由」こそが駒場の特徴であり、とくに教養学科で顕著だと思います。それを教育プログラムに即して言えば、「学際性」と「先進性」と「柔軟性」の三つで表現できるでしょう。
 「学際性」というのは、いろんな専門領域が学べるというだけでなく、境界領域のテーマに関する研究や、領域横断的な研究ができるということです。それは学科やコースの名称にも表れています。
 超域文化科学分科には、文化人類学、表象文化論、比較文学比較芸術、現代思想、学際日本文化論、学際言語科学、言語態・テクスト文化論があります。地域文化研究分科にはイギリス研究、フランス研究、ドイツ研究、ロシア東欧研究、イタリア地中海研究、北アメリカ研究、ラテンアメリカ研究、アジア・日本研究、韓国朝鮮研究があります。総合社会科学分科には相関社会科学と国際関係論があります。
 教養学科以外にも、科学技術論、地理・空間、総合情報学、広域システムから成る学際科学科、数理自然科学、物質基礎科学、統合生命科学、認知行動科学、スポーツ科学から成る統合自然科学科があります。
 コース名だけ見ていても、何を研究するのかよく分からず、しかもこんなにたくさんあって目が回りそうです。でもそれが学際的ということです。研究にはいろんな対象があり、そこにアプローチするにもいろんな方法がある―それは今日ますます必要な学問の姿勢です。
 しかも、それでもまだカバーできない新しい領域があって、それに取り組もうとするのが「先進性」です。その象徴がサブメジャーとして履修できる学融合プログラムで、グローバルエシックス、進化認知脳科学、科学技術インタープリター、グローバルスタディーズ、東アジア教養学があります。
 このようなプログラムが時勢に応じて作られ、自分の専門と自由に組み合わせられるのが、駒場のカリキュラムの「柔軟性」と言えるでしょう。
 さらにこうした自由は、開放性でもあります。学際性も先進性も柔軟性も、個別の専門や現在の制度からの開放です。そこでもう一つ、駒場で忘れてはならないのが、日本からの開放、すなわち国際性です。
 前期課程のPEAK、後期課程の国際日本研究コース・国際環境学コース、大学院のGPEAKは、英語で学位が取得できるコースで、多くの留学生や帰国子女の学生が学んでいます。また一般のカリキュラムでも、教養学科には専門外国語の授業が多く展開され、前期課程で学んだ外国語をさらに専門研究へとつなぐ形で学ぶことができます。駒場から海外に留学する学生が多いのも、そういう環境が影響していると思います。
 こんなふうに書き連ねていると、大海に放り出され、おぼれてしまいそうな不安に駆られるかもしれません。いえ私はむしろ、みなさんを不安にしたくて書いている部分もあります。それはみなさんがこれから出会う自由のもう一つの側面だからです。
 駒場には、上で述べたような自由さゆえに、何をやっていいのか分からず、方向が定まらない学生が少なくありません。あるいは、やりたいことはあるのに、どの学問から入ればいいか分からない学生もいます。そうやってさまようのです。しかも、みんな興味関心がバラバラで、近いことをやっている人がいない寂しさを感じることもあるでしょう。
 それはたしかに不安なことでもあります。自分は何がしたいのか、どうすればいいのか、自分は何者なのか、問わずにいられなくなる時があります。でも不安は自由のもう一つの味わいです。不安のない自由はありません。だから迷うことがあっても、悩むことがあっても、気にすることはありません。安心して迷い悩めるのが、駒場のいいところです。先生も先輩も、同級生もそういう人たちが多いと思います。だからみんな、自由の海で思う存分いっしょに泳ぎましょう!

(教養学科長/超域文化科学/ドイツ語)

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