HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

〈後期課程案内〉法学部 法学部への誘い

法学政治学研究科長・法学部長 山本隆司

https://www.j.u-tokyo.ac.jp/

 人間の社会で生じるさまざまな問題は、どのように解決されているのでしょうか。また、どのように解決されるべきでしょうか。そして、問題を解決するために、社会はどのようにして、またどのような考え方によって成り立っているのでしょうか。法学・政治学は、こうしたテーマを探究する学問です。自由な個人から、家族、さまざまな取引関係、企業その他のさまざまな目的をもつ団体、市場をはじめとする社会システム、「公共」圏、自治体、国、国際関係・グローバル関係といった多元的で多層的な社会を成り立たせることは、決して単純にできる営為ではありません。こうした社会を理解し批判的に分析することも、また同じです。
 私たちが社会で解決を迫られている問題も、多岐にわたります。具体的な問題が新型コロナウイルス感染症のまん延によって発生していることは明らかでしょう。これは、従来も存在した諸問題が顕在化または深刻化したものと見ることもできます。例えば次のような問いです。自由と安全をどのように両立させるか。リスクに対し、科学的知見と政策判断とをどのように結びつけて社会的な決定を行うべきか。また、緊急時に、平時の権利や権限の変更がどのように、どの範囲で認められるか。リアルの世界でむしろ激しくなる財の配分・分配をめぐる争い、および格差の問題をどのように解決するか。多数者と多数者との間で迅速・大量に情報を交換することが可能になり、さらに人工知能が活用される情報空間の中で、各主体の権利と自律および民主的な社会をどのように保護し、実現するか。また、各主体の責任と、取引その他のルールのあり方をどう考えるか。そして、環境、経済・財政、包摂的な社会の持続性を、どのように確保し、相互に両立させるか。
 問題にアプローチするには、問題に関わる個々の社会事象がもつ意味の多面性、およびさまざまな社会事象の間の共通性と差異を明らかにする必要があります。そして、社会事象を規律し、または分析・解明するための規範、考え方、理論、概念を洗練させる必要があります。巨視的には、社会の問題に対応する法と政治、および法と政治に関する理論・思想について、歴史を振り返り、また他の国ないし社会のそれらを理解するように努めることが重要です。こうした探究は、現代の自らの国ないし社会の法と政治、およびそれらに関する理論・思想をよりよく理解し、反省するために必要です。
 もっとも、社会の複雑性と可変性に鑑みれば、以上に述べたことがすべてできる万能人・超人を想定することは困難です。ましてや万能人・超人が社会を動かすと想定することは危険です。しかし、法学部の学生には、自らの関心分野、自らの得意な方法を出発点にして、法と政治の基礎を理解し、それをもとに議論を組み立てる能力を身につけていただければと考えています。
 そのための道標として、法学部は、法学総合コース、法律プロフェッション・コース、政治コースという三つの類、公共法務プログラム、国際取引法務プログラム(いずれも法学総合コースの学生が対象)、法科大学院進学プログラムというプログラムを設けています。「類」は、社会において問題を解決するための規範を対象にする法学と、事象を対象にする政治学とが、切り離せないことを反映した緩やかな区別、道標です。高い壁で仕切られた「学科」ではありません。法学・政治学だけでなく、社会事象を分析するために必要な経済学に関する基本科目を多数開講していることも、本学の法学部の特徴です。外国語または外国語のテクストを用いる外国語科目も開講されており、法学総合コースでは履修することが卒業要件とされています。留学先で取得した単位の卒業単位への算入など、海外留学を容易にする制度も設けられています。
 学生の皆さんそれぞれにとっての出発点・道標を別の角度から示しましょう。皆さんの中には、現実の具体の問題・紛争にまず関心をもつ方も、理論・概念、思想、歴史、あるいは国際比較にまず関心をもつ方もいるでしょう。一方で、本学の法学部の教員は、国や地方公共団体の審議会や各種研究会等の場で、法曹、官公庁、企業、メディア等、各界の実務家とともに、社会の諸課題に第一線で取り組んでいます。他方で、本学の法学部は、基礎分野における研究の蓄積の広さと深さを誇り、法制史・政治史、比較法・比較政治の幅広い分野について、研究を重ねている教員を擁します。各教員の関心は、講義に反映されることはもちろんですが、演習においてよく現れ、皆さんが直に触れることができるといえるでしょう。多くの教員は毎年、演習を開講し、学生の皆さんは、それぞれの関心に応じて学期ごとに選択して演習を履修できます。法学部というと大教室の「マスプロ」授業が取り上げられがちです。しかし、演習は、学生と教員との間、そして学生相互で議論し、親交を結ぶことができる場になります。
 皆さんが法学部コミュニティの一員になりますことを、心から歓迎します。

(法学部長/行政法)

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