HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

〈後期課程案内〉工学部 東大工学部は日本のエンジンである

工学系研究科 副研究科長 加藤泰浩

https://www.t.u-tokyo.ac.jp/

 皆さんは「エンジニア」という言葉から何を思い浮かべるでしょうか。例えば、自動車やロボットなどのハードウェア(モノ)を作る専門技術職があるでしょう。近年ではあらゆる分野に組み込まれつつある情報技術の専門家を指す言葉としても広く使われます。この「エンジニア」の語源は古く、15世紀のルネサンス期に遡ります。ラテン語で「才能」「賢さ」「新技術」を意味する「ingenium(インゲニウム)」から「エンジン」という言葉が生まれました。その担い手が「ingeniator(インゲニアトール)」であり「エンジニア」の源です。かのレオナルド・ダ・ヴィンチもその一人とされています。彼らは日々「新しいアイデアを考える」存在でした。天災や戦争など、様々な脅威に打ち勝つためのたぐいまれな才覚を社会が求めていたのです。
 私たちが生きる現代社会は、差別や貧困、気候変動、超高齢化、地域紛争、ウイルス感染症など、複雑で困難な問題に直面し続けています。このような問題の解決には、多種多様な専門知・経験・価値観を基に、あるべき未来のビジョンが求められます。エンジニアリング(工学)は、それを実現するための学問です。工学がカバーする領域は、基礎科学を追究する分野、追究して得られた知の社会実装を主導する分野、新しい融合領域を開拓する分野など極めて広く、研究・開発のスケールも多岐に渡っています。それぞれの分野で探求して得た知を活かし、夢を描き、地球と人類社会にとってより良い未来をつくることが、私たち工学部の大きな目標であり使命といえます。
 工学部は、現在十六の学科で構成されており、伝統と革新のバランスが取れた工学教育により社会の要請に応えようとしています。約五八〇名の教員と二二〇名の事務・技術職員が所属し、日夜研究・教育に励んでいます。そして、二二〇〇名の学部学生、二三〇〇名の修士課程学生、一二〇〇名の博士課程学生が工学を学び、それぞれの未来を思い描いています。これらの研究・教育を通した様々な社会貢献によって、新しい時代を切り拓いていくことが工学部の担う社会的な責務です。
 また、工学部では人間の多様性を尊重し、一人ひとりの個性を活かすインクルーシブな社会の実現を目指しています。特に、大学における男女共同参画に力を入れており、性別や年齢、立場などにとらわれることなく、誰もが先進的な学問・研究を修められる環境を提供するための取り組みを進めています。例えば、女性教職員や産業界で活躍される女性との懇談の機会を設けるなど、女子在学生に対して積極的に進学選択のための情報を提供しています。また、女子中高生やその保護者・教員の皆様に向けて、工学部に進学した女性が活躍する多様なキャリアパスやロールモデルを紹介し、工学部を選択した女子学生が将来のキャリアプランをイメージしやすくなるよう努めています。
 さらに、日本や世界を元気づけるためのアウトリーチ企画にも取り組んでいます。"CREATE(狂ATE)THE FUTURE"もそのひとつです。これは、「工学部って何をしているの?」「工学部にはどんな人がいるのか?」といった皆さんの疑問に答えるべく、「狂おしいほどの衝動で未来を創る」工学部の学生たちにスポットを当て、その衝動と思い描く未来を探る企画となっています。工学部YouTubeサイトにて動画を公開していますので、是非ご覧いただければと思います。
 経営コンサルタントとして大変に著名な経営共創基盤会長の冨山和彦さんは、私が東大入学後に所属した基礎スキー同好会の二学年上の先輩で、今でも繋がりが続いています。その冨山さんが、次のような言葉を今回の教養学部報に寄せてくれました。
 「これからの時代、いやもう既に、東大を卒業してキャリア官僚や古くて大きな有名企業に入って、定年まで東大卒エリートサラリーマン人生を全うできる可能性はほとんどない。運よくそれが出来たとして、やりがいにおいても、経済面においても、残念な人生になる確率が高い。仕事の本質とは、大事なお金を払ってくれるほどのお役立ちを世のため人のためにするということ。今や世界も日本も様々な問題に直面しており、そこで問われるのは人間の叡智、すなわち知のイノベーション力でありスタートアップ力だ。東大工学部はまさにそのエンジンとなるべき存在である。東大生であることは、知力において一定の才能を授かっていることを意味しているが、東大の入試に合格する程度の知力では真に世の中の役に立つことはできない。二十代、三十代にどんな分野でもいいから知の修練を徹底的に行い、知のプロフェッショナルとして「いい仕事」ができる人材に成長していってほしい。そのためには東大工学部は性別国籍を問わず最高の場所の一つである。」
 18世紀には、「エンジン」は「才能」から「エネルギーを動力に変えるもの」という現代的な意味で使われるようになったそうです。皆さんの持つ底知れぬエネルギーを、日本そして世界の未来を明るくする駆動力に変換する場として、工学部を選んでみませんか?

(副研究科長/システム創成)

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