HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

〈後期課程案内〉理学部 今こそ理学だ!

理学系研究科 副研究科長 山本 智

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/

 21世紀に生きる我々は様々な課題に直面している。二〇一五年、国連は、人類の知恵を結集して二〇三〇年までに取り組むべき十七の課題を、「持続可能な開発目標(SDGs)」として掲げた。たとえば、気候変動や異常気象が世界的問題となる中、このかけがえのない地球環境をどう守っていくかということは喫緊の課題となっている。クリーンエネルギー・脱炭素への転換もその中の大きな挑戦で、社会全体で様々な取り組みが始まっている。一方、SDGsとして挙げられた課題とともに、今、世界は大きな変化の中にある。コロナ禍は私たちの日常を大きく変え、ウクライナでの状況は、変化しつつある国際情勢の中で、世界平和の尊さと重要性を改めて感じさせる。この激動の時代において、社会は、自律的に進路を定め、荒波を越えて航海できる人材を広く求めている。
 このような状況にあって、大学の学術と人材育成への役割は益々大きくなっている。なかでも、「理学」を修めた「知のプロフェッショナル」の活躍が大いに期待されている。理学部は、数学科、情報科学科、物理学科、天文学科、地球惑星物理学科、地球惑星環境学科、化学科、生物化学科、生物学科、生物情報科学科の十学科からなり、学生は授業、実験、実習などを通して、あらゆる分野の基礎となる専門知識・概念をしっかり学ぶ。そして、卒業生の多くが大学院に進み研究テーマに取り組むとともに、国際経験も積む。基礎だから、様々な社会課題の解決には役に立たないと思われるかもしれないが、決してそうではない。世界で戦える強い基礎力を身に付け、大学院で知の地平を少しでも拡大する挑戦を経験してきた学生は、それを活かして、アカデミアであれ社会の中であれ、どんなことにでも立ち向かうことができる力と勇気を持っている。急速に変化する社会、科学技術の時代にあって求められるのは、まさに、そのような人材である。理学を修めた学生は、「幹細胞」ならぬ「幹人材」として、様々な分野でその能力を発揮している。実際、理学部・理学系研究科の出身者は社会からも広く求められていて、就職においても様々なところから歓迎されている。キャリアパスとしては、アカデミアはもちろんのこと、製造業、金融、シンクタンク、IT関連、マスコミ、官公庁、そして海外など幅広い。強い基礎力と未知なことに挑戦できる勇気が評価されているのだ。
 理学は、一言で言うと、「自然の仕組みの極限的探究」である。人類は自然について膨大な知識を蓄積してきており、そのことから、我々は自然のことはよくわかっている、制御できると思いがちである。しかし、それは正しくない。自然は奥深い。我々はその一部を理解して、利用しているにすぎないと謙虚に思うべきである。たとえば、何か自然災害や事故で大きな被害が起こったとき、よく聞かれるのは「想定外」という言葉である。実はよくわかっていないのである。そう考えたとき、自然を理解しようというあらゆる試みに意味があることがわかる。それには、一人一人の自由な着想による研究、Curiosity Drivenの研究が根本的に重要である。一人の頭脳に浮かぶ一つのクエスチョンから大きな世界が開くこともある。数多の中から僅少な例を挙げると、フラーレン、ナノチューブの広大な世界は、実はHarold Kroto博士とRichard E. Smally博士による宇宙における分子形成を調べる小さな研究から切り拓かれた。また、真鍋淑郎博士が着想した「大気海洋結合モデル」は、その後の地球温暖化研究の基礎をなした。さらに、大隅良典博士が取り組んだ「オートファジーの分子メカニズム解明」は、難病治療の分野にも大きく貢献している。このようなノーベル賞につながった大きなことだけでなく、一人一人の興味から始めた小さな研究が知の地平線を大きく拡げ、花開くことはたくさんある。理学研究は、結果として直接、間接を問わず様々な形で社会の発展を支えているのだ。近年、学問の進展は著しく、異なる分野どうしが合わさってダイナミックな流れを作っている。特に最近ではAIや深層学習が様々な分野に入り込んできていることが一つの特徴と言える。また、量子計算や量子技術にも新たな注目が集まっている。どんな対象であっても、自然と真摯に向かい合うことに、学生も教員もないし、また、学問分野の境界もない。だから面白いと思うこと、やりたいと思うことに夢中になって取り組む。それが理学の真髄だ。
 若い皆さんは無限の可能性を持っている。もし、皆さんが自然の仕組みに興味を感じているのなら、またもしその一端を解き明かしてみたいと思っているのなら、理学の世界で一緒に自然と向かい合おう!そこで学ぶことや経験はどんなキャリアに進もうと一生の支えとなるはずだ。理学部はそんな皆さんを待っている!

(副研究科長/物理学)

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