HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

〈後期課程案内〉教育学部 格差と分断に挑む新しい教育学の創造へ向けて

教育学研究科長・教育学部長 小玉重夫

http://www.p.u-tokyo.ac.jp/

多様性と対話を阻む格差と分断の壁
 東京大学教育学部は第二次世界大戦後の一九四九年に創設された東大の中では比較的新しい学部です。学生のジェンダー比率はほぼ一対一で、多様性という点でも東大の中では先進的な位置にあります。
 しかし、二〇二〇年以降の新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会に存在している格差の構造が顕在化し、教育を受ける権利を享受できる層とできない層との間の分断が広がりました。さらに、世界に目をやれば、民族間、国家間での分断も深刻で、その象徴ともいえるロシアによるウクライナへの侵攻は、世界の平和と民主主義にとって大きな脅威となっています。このように、現在、社会では格差が拡大し、それが社会の分断を深めるという、格差と分断の悪循環が存在しています。この格差と分断の悪循環を、いかにして多様性と対話の好循環へと転換していくのか、その一つの、そして最重要の鍵となるのが、教育ではないでしょうか。そのような問題意識のもと、教育学部では、「グローカルな共生社会の実現に向けた、格差と分断に挑む「架橋する教育学」研究教育拠点の構築」という課題を掲げました。この課題に取り組んでいくためには、これまでの教育学の在り方自体を見直し、新しい教育学を創造していくことが重要であると、私たちは考えています。

社会を変革する主体の育成
 たとえば、これまでの教育では、社会に適応していくための教育、そのための知識や技術を身につけるための教育が重視されてきました。それに対してこれからの教育は、社会を変革していく主体の育成、そのための探究活動が重要であるといわれています。これまでの教育が、正解を導く問題練習の場であったとすれば、探究とは、答えのない問いと向き合うことである、というわけです。
 しかしそのような探究する主体は果たして学校教育によって生み出されうるのでしょうか。学校教育が成功裡に生み出した「いい子」ほど、社会に適合的に順応し、学校教育から逸脱した「悪い子」の中にこそ、社会を変革していく芽がある、という面もあるのではないでしょうか。ここに、教育という営みに本質的につきまとうパラドクスがあります。そうしたパラドクスを見据えつつ、学校を社会変革の主体が育つ場、探究的な市民が育つ場としてつくりかえていくことができないだろうか、そのような問題意識から、東京大学教育学部では、附属中等教育学校を中心として、ディープ・アクティブラーニングを通じた「探究的市民」の育成に取り組んでいます。同校では生徒が主体となった文化祭や芸術祭など自治的な活動が繰り広げられているだけではなく、授業を探究的な活動にしていくプロセスにも生徒が参加し、例えば年一回開かれる同校の公開研究会では、研究者、教員、生徒が一堂に会して授業検討会やシンポジウムが行われています(写真参照)。

image636_6_1.jpg多様性と包摂性の空間を構築する
 また、格差と分断をのりこえるための条件となるのが、キャンパスの包摂性・多様性を高めるという課題です。この点を見据えて、教育学部では、この四月から、KYOSS(教育学部セイファー・スペース)を開設しました。
 KYOSSは、多様なジェンダー/セクシュアリティ、障害、生きづらさの当事者性を持つ学生・院生・教職員相互の学び合いや協働を通じた、新たな教養教育と多様な知性が展開するプラットフォームとして運用されます。また、隣接する場所にはオールジェンダートイレを設置しています。
 このような教育学部の数々の革新的な取り組みの輪に、皆さんもぜひ加わってみませんか?

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(教育学部長/総合教育科学)



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