HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

〈後期課程案内〉薬学部 創薬の源泉を生み出す

薬学系研究科 副研究科長 村田茂穂

https://www.f.u-tokyo.ac.jp

 現代の薬学はめざましい勢いで進歩しています。しかし未だに医薬品で治せない病気は数多くあります、いやむしろ治せる病気は未だほんの一部と言った方が適切かもしれません。しかし、ひとつの良い薬を生み出せれば、世界中の何百万人もの人を救うことが出来るかもしれない、それほど薬学は私たちにとって重要かつ魅力的な学問です。
 それでは薬はどうやって生まれるのでしょうか?薬は紀元前から存在し、植物など自然にあるものを治療に利用していました。近代になってこれら天然物の有効成分が単離され医薬品となりましたが、なぜその医薬品が効くのか、薬の標的分子と作用機序が明らかになるのは後追いでした。現代では、創薬(新しい薬を作り出すこと)は、基礎的な生命科学研究の発見が土台となり、その結果明らかになった疾患標的分子を狙うことから出発します。実際、近年の重要な医薬品は、元々は疾患治療などを全く目的としていない純然たる基礎研究に端を発していることがほとんどであり、サイエンスを究めることが創薬の源泉といえます。医薬品が開発されるまでにはさらに長いプロセスと年月が必要になります。薬の候補となる新規化合物の探索、化合物のブラッシュアップ、薬物動態研究、有効性と安全性の検証、臨床試験等を経て、国の審査と承認を受けてようやく世に出ます。より迅速で効率的な革新的創薬のプロセス、例えばビッグデータやAIの活用、新しいモダリティー(創薬技術・手段)の開発など、次世代創薬基盤技術の創出も喫緊の課題です。これら創薬に必要な広範な学問を学び、研究することを通じて、創薬の源泉を生み出し世界に貢献する人材を輩出することが東京大学薬学部の使命です。
 以上の通り、様々な科学の総合知が薬学には必要になります。そのため、薬学部では有機化学、分子細胞生物学、微生物学、免疫学、物理化学、分析化学等の基礎的学問は元より、創薬を目的とした薬物動態学、薬品作用学、天然物化学、さらに創薬の最終段階に関わる医薬品評価科学、医薬政策学、育薬学等の学問を、二年生Aタームと三年生で基礎をしっかり学ぶことになります。三年生になると、講義に加えて、十九ある全基幹研究室持ち回りの指導による実習が毎日午後に一年間に渡って行われます。この間に、様々な薬学研究の進め方を経験してもらいます。薬学部は一学年の学生数が約八十五人の小所帯ですが、この実習を通して学生同士の交流がより深いものになり、各研究室の教員や大学院生とも知り合うことになり、研究内容や研究室の生の雰囲気も知ることができます。これは薬学部教育の一つの特徴と言えます。
 薬学部には、創薬・生命科学研究者育成に重点を置く四年制の薬科学科と、高度医療を担う薬剤師の育成を目指す六年制の薬学科の二つの学科があり、学生は三年生の十一月頃に選択します。薬学部の定数八十五名のうち薬学科は八名が定員となっており、希望者の成績・面接試験により選抜します。幅広く学んだ後に専門分野を決めるlate specializationを理念とする東京大学の中でも、さらに一段階遅い学科選択ですが、十分な自己分析と情報収集を行ったうえで選択することができます。
 四年生になると、薬科学科、薬学科ともに、各研究室に配属され、研究室の教員の直接指導のもと卒業研究を開始し、世界最先端の研究に参加してもらうことになります。有機化学系、物理系、生物系、社会薬学系と幅広い研究内容の研究室があり、選択肢不足に悩まされることはないでしょう。薬学科の学生は四年生で卒業、学士号取得しますが、ほとんどの学生がこの経験を土台にして、大学院修士課程に進学しています。修士課程には外部の大学・学部からの入学者も加わり総勢約百人となりますが、そのうち博士課程には約半数が進学しています。修士課程修了者は、ほとんどが、製薬、化学、食品、化粧品系の企業や官庁などに就職しています。博士課程修了者の場合は、約半数が大学や公的機関の研究者の道を選び、半数が企業・官庁等に就職しています。企業の場合、製薬企業の研究職が最多となっています。薬学科の場合、六年生で卒業となりますが、その間にCBT・OSCIという薬剤師資格を取るための予備試験、病院・薬局実習を経て、最後に薬剤師国家試験を受けて卒業となります。卒業者は、病院薬剤部などに就職する学生もいますが、その後の四年制博士課程に進学する学生も増えてきました。東京大学薬学部卒業で薬剤師資格と博士の学位を有する人材は、非常に希少価値の大きい存在で、大きな活躍の道が開けています。
 薬学部は約二十の研究室と一学年八十五人程度の学生という小さな学部ですが、生命科学・創薬研究という研究上の一体感があります。それに加えて、学生同士、教員同士、研究室同士の風通しが非常に良く、必然的に分野横断型の教育・研究活動を実施しているというのが薬学部の大きな特徴です。さらに年間を通じての、スポーツ(サッカー、バレーボール、バスケットボール、ソフトボール)交流、千葉検見川運動場でのスポーツ大会、埼玉戸田ボートレース上での水上運動会等、研究以外の交流も非常に盛んです。教員もフランクな先生ばかりですので、見学したい、研究の話を聞きたいなど、積極的にアプローチしてみて下さい。

(副研究科長/分子細胞生物学)

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