HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

駒場アカデミック・ライティング・センターへの誘い

大石和欣

 二〇二二年四月に新たな組織と空間が駒場キャンパスに誕生する。駒場アカデミック・ライティング・センター(The Center for Academic Writing at Komaba, 略称CAWK)である。その名の通り、学術的な論文執筆に関わるさまざまな情報提供と支援を行うのがその機能と使命である。
 これまでALESS/ALESAやFLOWといった英語関係のライティングあるいは学術的コミュニケーションに関わる支援は駒場ライターズスタジオで提供されてきたが、日本語を含むライティングに関わる授業支援は組織的に行われてこなかった。それらを束ねて組織的に提供するプラットフォームとして本センターは設立された。物理的空間としてももちろんだが、過去二年間のコロナ禍におけるオンライン教育の展開と経験を基にして、オンライン上でも情報提供や支援を行うことを目指している。
image636_7_2.png 物理的な「場」としては、センターは銀杏並木の北側にある10号館一階一〇三室にある。原稿を書いている三月中旬現在、四月の開設を目指して大規模な改装工事がまさに進行中である。実物写真の代わりに完成予想図を示しておく。銀杏並木側の正面玄関から入って左手の部屋が事務室で、その奥が学生の皆さんに使っていただく部屋である。向かい合って座ることができるベンチシートや自由に動かしてグループで論文について支援を受けられる可動式の椅子と机、また、最新のプロジェクターと壁面いっぱいに情報を書けるホワイトボードが備えられ、室内でも、リモートでもワークショップや指導を受けられる環境が整備される。ウェブサイトについては四月に完成というわけにはいかないが、学術ライティングに関わるさまざまな情報などを提供する予定である。
 高校時代までに読書感想文や小論文などの書き方を学んできた新入生は、大学生になって初年次ゼミなどの授業で学術書や学術論文に触れ、レポート・論文執筆の基本について学ぶことになる。論文執筆に際しては、資(史)料やデータの収集方法や議論の仕方はもちろん、引用や注の仕方を含む書式などの約束事を遵守する必要があり、四苦八苦することになる。表現についても細かな注意が必要で、語彙力やセンスを問われる。ALESS/ALESAではそれを英語でやらなくてはならないのでハードルはいっそう高くなる。
 面倒なものに思われがちだが、「書く」という行為は「知」のあり方そのものでもある。疑問から出発し、仮説を打ち立て、実験、データ収集と検証、フィールドワークを重ねることで立証し、論理的かつ学術的手続きに従って議論を展開していく知的能力は大学教育を通して身につけなくてはならない技能の根幹と言っていい。著述活動は、批判的思考力はもちろん、語彙力・表現力、あるいは実験手法やデータ・資料(史料)分析を駆使して新たな「知」を構造化していく創造的プロセスに他ならないからである。大学生の早い段階からそうした知の技法を修得し、国際的視野を持って発信力を備えることは、グローバル化した現代社会においては不可欠の教養である。
 とはいってもリソースに限りがあるので、ライティング・センターがなんでもかんでも支援できるわけではない。まずは開設する今年については、ALESS/ALESAやFLOW、日本語に関わる授業の支援を中心に据えながら、ウェブサイトやワークショップを通してアカデミック・ライティングに関わる情報やノウハウを発信していく予定である。ぜひ一度開放的で居心地のいい10号館一階のセンターに足を運んでもらいたい。ウェブサイト完成後は、そちらでも情報発信を行う予定なので、こまめにチェックしてもらえればと思っている。

(言語情報科学/英語)

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