HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

<時に沿って> 化学とのふれあい

小林広和

image636_8_1.jpg はじめまして。相関基礎科学系・先進科学部会に准教授として着任いたしました小林広和と申します。将来に希望が持てる持続可能な社会を目指して、触媒化学を主軸として研究に取り組んでいます。私が子供のころは、化学と言えば公害、環境汚染、人体に毒というイメージでしたが、工学的な進歩、作り出す物質の改良、そして自動車の三元触媒に代表される触媒の大きな進化により、環境汚染物質の劇的な排出削減が進み、最近では環境と調和した化学というイメージも生まれつつあることは特筆すべきです。触媒はあまり表舞台には登場せず、縁の下の力持ちといったところですが、その性能如何によって社会の取りうる姿が変わってくるので、やりがいを感じます。具体的なテーマとしては、セルロースに代表されるバイオマスの変換反応を研究しています。人類が持続的に発展していくためには、大気中に放出される二酸化炭素をどのように再生するかということが重要課題となりますので、それが植物の光合成を介したものであれ、人工的な還元反応を介したものであれ、サイクルがうまく回るようにしていく必要があります。また、アルカンの選択酸化を研究しています。天然ガスや石油の主成分として大量に存在するアルカンは、炭素と水素の強固な結合しか持たないため、化学原料として利用しようとしても効率が悪く、その変換のために大量の二酸化炭素が排出されています。アルカンのその炭素と水素の結合の間に一つだけ酸素原子を入れると有用なアルコールになりますが、これは形式の単純さとは裏腹に、夢の高難度反応とされており、この効率的な触媒反応が実現すると、二酸化炭素のかなりの排出削減が期待できます。基礎学理の構築から社会実装に向けて一歩一歩頑張っていきたいと思います。
 さて、新年度、学部前期課程ではアドバンスト理科(研究入門)という授業を受け持つことになっております。これは、パッションに満ち溢れた少人数の学生を研究室で受け入れて、一人一人異なるテーマで、最先端研究を実際に体験してもらうという試みです。それぞれ別の内容に取り組むどころか、研究計画から始まりどのような結果が出るかも不明なわけですから、一筋縄ではいかず、色々なコストがかかることは明らかですが、こんなに楽しいことはないと思っています。私は高校生の時は化学部に所属しており、毎日放課後好きな実験をやっていました。暗記が大の苦手なのですが、試薬を触りすぎて高校の化学の知識は知らないうちに覚えていました。ところが、大学に入ると全く好きに実験ができなくなり、暗澹とした気持ちになりました。四年生で研究室に配属されて、自由にしかも目標を持って実験ができるようになった時の喜びは今でも忘れられません。そのようなわけで、この研究入門で、自分で考えてどんどん新しい実験・研究がしたいという学生の需要に応えられたら嬉しく思います。

(相関基礎科学/先進科学)

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