HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報636号(2022年5月 9日)

教養学部報

第636号 外部公開

<時に沿って> もっと光を!

長田有登

image636_8_2.png 一月一日付けで本学助教に着任いたしました、長田有登と申します。苗字も名前も初見で間違えられなかった試しがありませんが、「ながたゆうと」ではなく「おさだあると」です。イタリア好きの母が良い名前をくれました。今後も研究と教育に微力を尽くす所存です。よろしくお願い申し上げます。
 私は本学物理工学専攻の出身であるためか、物理学とアイデアを駆使して「何か」が可能になるものを作るような研究をしております。とりわけ私は駒場にいたころから光に強い興味を抱いていたように思います。光は相対性理論と量子力学の黎明において大きな役割を果たしたに留まらず、ニュートンの時代から折に触れて、物理学には光が大いなる謎とともに立ちはだかってきたといっても過言ではないでしょう。そして連綿と続いてきた光と物質の相互作用の研究の偉大なる産物として、レーザー光という「古典的で不自然」な光も、ひとつの光子という「量子的で自然」な光も、発光素子を工夫することで作り出すことができてしまう時代になりました。
 そんな時代に研究の世界に飛び込んだ私は光をある領域に閉じ込めてみたり、冷凍光線で気体を冷やしたり、はたまた閉じ込めた光をぐるぐる回して光で磁石の渦巻き模様を描いてみたり、といった研究をしながら学生時代を過ごしてきました。やはり時折私の前には厳然たる光の巨人が難題や奇怪な実験結果を携えて立ちはだかりました。しかしウーンウーンと唸り続けた末には一転して光の巨人は頼もしい味方になり、頼もしい武器となり、と楽しく光と戯れているうちに象牙の塔の門を敲くに至りました。
 その後本学の特任助教に着任しました。今度は原子のような単一の量子力学的な物体が単一の光子とエネルギーをやり取りするような状況を利用し、量子力学的状態にある光を我々の意図したように発したり受け取ったりするデバイスの研究に従事しました。究極的に光を操るという研究の方向性のひとつとして、量子力学的な光をターゲットにするような世界に飛び込んでいったというわけです。これが現在も行っている「光量子インターフェース」と呼ばれるものの研究です。
 私が現在作ろうとしている光量子インターフェースは原子イオンを用いたもので、真空中に電場でふわふわと浮かされた原子イオンに光の量子的な状態を移す、あるいは逆に原子イオンの量子的な状態を光子に移すことを狙うものです。さらには、薄いガラス板に光を伝える配線や光を制御する素子を埋め込むような光回路を用いて、より簡単に光量子インターフェースを作り、増やし、果ては量子コンピュータの実現の一助となるような研究をしたいと考えています。技術的困難は多々ありますが、それゆえにやりがいを感じています。
 昨今は「光を操る」ことも「光で操る」こともそれなりにできますが、まだ技術的に実現されていないことが多く、フォトニクスや量子光学、そしてそれらの物質系への応用には果てしないフロンティアが広がっております。なんと良い時代なのでしょうか。

(相関基礎科学/先進科学)

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