HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報637号(2022年6月 1日)

教養学部報

第637号 外部公開

<時に沿って> 明日晴れるかな

高橋祐美子

 身体運動科学研究室の准教授として着任しましたが、実はこれまでも六年間、助教や非常勤講師として東大にいました。主にスポーツの実技(スポ身)を担当し、東大生に枕投げを吹き込んだりしました。これからは実技に加えて講義や専門教育、研究指導にも携わる予定です。
 「時に沿って」は六年前にも書き、その時は大学時代に打ち込んだこととしてラクロスの話をしました(教養学部報五八四号)。今回はその続きの話です。
 ラクロスに取り組む中で、パフォーマンスを上げる科学的な方法を知りたいと思いました。そこで興味を持ったのは運動生理生化学です。動く、走る、すなわち骨格筋を収縮させるためのエネルギーを作るには、糖や脂質を代謝利用することが必要です。代謝を改善するトレーニングや基質の供給を増やす栄養摂取の方法がわかればパフォーマンスを上げられるのではないかと思い、修士より東大で、運動生理生化学が専門の八田秀雄先生のもとで研究を行いました。
 院生生活の中で、研究者や教育者としてやっていける力が自分にあるのか、疑問を持ちました。そのため、学位取得後はそちらの道には進まず、東京工業大学の技術職員となりました。ところが二年目の夏、スポーツ分野の学会に久々に参加し、大学院の同級生や先輩後輩が活躍する姿を見ました。私はこのままでいいのか?本当にやり切ったのか?という思いが沸いてきました。何の因果か、その頃に身体運動科学研究室の助教公募が出ました。東工大には申し訳ないことをしましたが、違う立場で研究機関を見たこと、研究を支える職員の方たちの重要性に気づけたこと、補佐員のおばちゃんたちなど色々な方に可愛がって頂いてコミュ力が少し上がったこと、二年間で得たものは大きかったです。
 研究者や教育者に向いているかは今も不明ですが、助教着任後は楽しく過ごしてきました。助教時代は優秀な院生たちの協力もあって研究を進められました。分野外の同僚と話す機会も多く、視野も広がった気がします。実技授業も楽しかったです。任期満了時の就活は苦戦しましたが、国立スポーツ科学センターに拾って頂きました。それまではずっと動物を対象に研究をしてきたのですが、ここではスポーツ選手を対象に競技力向上に関わる仕事をさせて頂きました。一年で退職となり、申し訳なさとこの魅力的な環境でもっと仕事をしたかったという思いもありますが、今後もスポーツに励む人たちの役に立つ研究をしていきたいです。また、スポーツの研究に興味を持つ若い人を増やすことも目標の一つです。
 「明日晴れるかな」という副題は、先が見えない時でも前に行こうという気持ちになれる桑田佳祐さんの曲より頂きました。将来に迷っている読者の方もこれを聴くと何か思う......かもしれません。自分のこれまでを振り返っても、迷いに迷いながら、明日の天気のように自分のコントロールの外にあるもの、例えば人の助けや巡りあわせなどに導かれてきました。この先も何が起こるかわかりませんが、明日も晴れる気がするので、出会う人やもの、行き着く景色を楽しみにしながら、ぼちぼちいこかと思います。

(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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