HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報637号(2022年6月 1日)

教養学部報

第637号 外部公開

<時に沿って> 着任にあたって

苅谷康太

 二〇二二年四月一日に総合文化研究科地域文化研究専攻に着任しました苅谷康太と申します。昨年度までは東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所に十年ほど勤めておりました。専門は西アフリカのイスラーム史ですが、もう少し具体的に言えば、西アフリカから西アジアに至る広域で活動したムスリム(イスラーム教徒)の知識人達が歴史的に構築してきた知の連関網の在り方を、彼らが残したアラビア語著作群の分析から明らかにしたいと思っています。「西アフリカでアラビア語?」「アラビア語は西アジアや北アフリカの言葉では?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、アラビア語という言語は、これを母語としない地域のムスリム社会もしくはムスリムと接触があった社会においても、歴史的に重要な役割を果たしてきました。西アフリカはそうした地域の一つであり、この地域のイスラーム知識人達は、母語ではないアラビア語を学び、この言語で書かれたイスラーム諸学の文献を読み、そしてこの言語を用いて多くの書物を著してきました。そのため、西アフリカの歴史を考える上で(そしてその歴史と繫がる現在の諸問題を考える上で)、この地域に残された膨大な量のアラビア語史料群に向き合うことはとても重要な作業になるわけです。更に言えば、ペルシア語やウルドゥー語のように、アラビア文字によってアラビア語以外の言語が表記される例は数多く知られていますが、西アフリカの幾つかの言語(ハウサ語、フルフルデ語、ウォロフ語など)も、歴史的にアラビア文字を用いて表記されてきました。西アフリカには、こうしたアラビア文字による現地諸語の史料も残されています。
 このような事情で、西アフリカのイスラーム史を研究対象にはしていますが、学部生の頃からこれまで、アラビア語もしくはアラビア文字で書かれた史料に向き合ってきました。そのため、教養学部前期・後期課程ではアラビア語の授業も担当する予定です。また教養学部後期課程や総合文化研究科地域文化研究専攻の授業でも、西アフリカから西アジアに至る広域を視野に入れながら、写本も含めたアラビア語史料を叮嚀に読み解いていく授業を行おうと考えています。
 学生として駒場に通っていた時期から既に十年以上が経過しているため、キャンパス内を歩くとあちらこちらで記憶にない風景に出くわし、懐かしさと新鮮さが入り混じった何とも言えない不思議な心持ちになります。思いもかけず駒場通いを延長することになってしまいましたが、気持ちも新たに、楽しみながら研究・教育に向き合っていければと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

(地域文化研究/古典語・地中海諸言語)

第637号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報