HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報637号(2022年6月 1日)

教養学部報

第637号 外部公開

<時に沿って> 縁遠かった駒場

香田啓貴

image637_5_01.jpg 二〇二二年の四月一日に総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系・認知行動科学講座の准教授として着任した香田啓貴といいます。専門は認知生物学で、ヒトとヒト以外の動物、特に霊長類を題材に、行動発現の基盤にある認知過程を実験的に探り、ヒトと動物の比較を通じて進化過程を議論する研究を行ってきました。十八歳で高校を卒業して、入学したのは京都大学理学部でした。そのまま、京大の大学院に進学し、博士課程を修了する以前に霊長類研究所で助手として採用され(助教職階に名称変更する最後ぐらいの助手採用でした)、そのまま京大で仕事を続けていました。ずっと京大で、しかも理学部の関わりの強い環境でずっと過ごしてきました。高校生の頃に京大(理学部)を目指したのは、ある種の憧れですが、その後ずっと京大と関わり合いを持ち続けたのは大きなこだわりがあったわけではないのです。研究生活で最善を尽くし研究者生存競争で生き抜く中で偶然続いていたに過ぎません。高校生の頃は、そもそも数学か物理を続けられる研究者になりたいと願い、京大理学部を目指したのですが、生物進化における収斂現象に数理科学的な美しさを感じ、生物進化と人間そのものと、数理科学がつながるような研究に強い憧れを抱きました。京大一直線で進む高校生の私は、大学入試の直前に興味の広がりに伴って進路に迷ってしまい、前期に京大、後期に東大を選択し、幅広く分野を構えることにしました。しかし、その時は前期で合格し、後期まで勉強する気はなく、京大に縁があったようでした。その後、大学院の進学の時、ポスドク先を探す時、いつも東大駒場は進路選択の秤にかけられ続けたのですが、いつも縁があった(決定の知らせが早い)のは京大でした。縁遠い駒場と思い続けてきました。しかし、今回縁あってついに駒場にやってくることになりました。コロナ禍が依然として続く日常の中での異動であったため、いまだ教養学部の教職員の皆さんとは顔を対面しないまま日々の暮らしが開始しており、戸惑う異邦人のような日々がつづいています。大学院では、田舎の研究所でずっと過ごしていたため、大学キャンパスの空気をすっかり忘れていたのですが、今回、約二十年ぶりに大学キャンパスに触れる日々を過ごしています。そこには高校を出たばかりの若い学生が行き交い、大学内の看板が立ち並び、懐かしい気持ちになりました。早速、駒場裏の千里眼で洗礼をうけ、こうした若く情熱のある情景を目にして、学生として第一歩を踏み出した自分を思い出すような初心に帰る心地がしました。霊長類をはじめとして、動物研究の新しい世界的な拠点をこの駒場で率いるべく、学生に戻ったつもりでやろうと決意をあらたにしています。文化に不慣れと戸惑い続けていたらあっという間に定年を迎えてしまうので、そんなことは気にせず、情熱を持って研究と教育を懸命に行いたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

(生命環境科学/心理・教育学)

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