教養学部報
第637号
<時に沿って> ものづくりに関する研究 ―これまでとこれから―
堀内新之介
二◯二二年四月一日付で大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系の講師として着任しました堀内新之介です。私は東京工業大学を卒業後、大学院に本学工学系研究科へ進学し、学位を取得しました。学位取得後は、分子科学研究所でIMSフェロー(博士研究員)を二年間、長崎大学工学研究科で助教を七年間過ごしました。他にも、オランダのアムステルダム大学とドイツのドルトムント工科大学への留学も経験し、国内外様々な環境に身を置き、この度、駒場キャンパスで研究・教育に従事することになりました。およそ十年ぶりの東京の地での研究活動になり、これから始まる駒場キャンパスでの生活に非常にワクワクしています。
私の専門は、まず第一に、新しい物質を作り上げる『合成化学』が大きな基礎になっています。その下流に位置する研究細目に関しては研究場所を変えるたびに増えていき、超分子化学・錯体化学・有機化学・有機金属化学・金属クラスター化学・光化学・放射光分光学・結晶学・計算科学と、今では多岐に渡って研究を行なっています。色々雑多に手を出しているように見えるかもしれませんが、これらは新しい物質を作り、その物質を調べる、という現代の化学研究の一つの王道を突き進んだ結果でもあります。用いる材料とレシピを変えるだけで、出来上がる物質の形と性質が変わるため、この合成化学という研究に終わりはありません。
新しい物質の開発は新しい技術革新に繋がるため、人類がより豊かな暮らしを手にしていくためには持続的な合成化学の発展が鍵となるでしょう。しかし持続的な発展を促すためには、固定観念にとらわれない柔軟な思考力と常識や限界を打ち破る原動力が必要です。それには常識や限界を知らない異分野間の若手研究者たちの協力が重要だと感じます。一つの物質群・一つの分野を極めて大成してきた方々も数多くいらっしゃいますが、最近では一つのものに拘ることなく複数の分野を渡り歩いてきた私のような人も少なくないように思います。私が所属するここ総合文化研究科広域科学専攻には多岐に渡る分野の先生方が在籍されているので、ここに所属する若手研究者や学生たちと一緒に、私も多くの先生方から刺激をいただき切磋琢磨して成長していきたいと思います。そして、これまでの常識を覆す可能性を秘めた物質の開発を目指し、日々研究に邁進していきます。
駒場キャンパスは閑静な住宅街に囲まれ、東京にありながらも周囲から隔離された研究施設・学園都市のような雰囲気があります。立地的にも恵まれ、日本の叡智と世界最先端の科学が集結したこの駒場の地で、研究者・教育者として高いレベルに上がれるよう、日々精進してまいります。それでは皆様、これからどうぞよろしくお願いいたします。
(相関基礎科学/化学)
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