HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報638号(2022年7月 1日)

教養学部報

第638号 外部公開

教養教育高度化機構シンポジウム2022「大学における社会連携による教育の可能性」報告

渡邊雄一郎

image638_1_1.jpg 教養教育高度化機構(KOMEX)の中に社会連携部門という部門があることをご存知でしょうか。東京大学の本部にも名前が似た社会連携本部というセクションがあります。これ以外にも社会連携という言葉のついた部門、セクションが東京大学の各所に存在しますが、それぞれ独立に活動をしているのが実情です。これまで現場からの生の声を聞きながら新たな教養教育を提案、実行してきたのがKOMEXであり、さらに社会から教養教育に望まれるニーズと迅速にマッチングさせる、あるいは教養教育を駒場から社会へと発信する場の提供を試行錯誤するのが当部門の役割と思っております。大学での教育活動の場において、大学外の民間企業、官庁などとの連携でどういったことが可能か。何をすれば教育に資することができるのか。そこから外部資金を得ることも可能なのか。相手方は何を期待できるか。グローバルに様々な状況が刻一刻と変化しています。これからの社会を担う若い世代に対して社会から生の声を伝える、あるいは世代を超えてクリエイティブな共同活動を行うのは、基礎科目や総合科目の枠では難しい教育内容かと思います。教養学部で社会連携部門が担える教育に関する議論をしたいという思いで今回のシンポジウムを企画いたしました。新型コロナ禍でオンラインでの開催となりましたが、学内外の方々の参加をいただきました。博報堂の宮澤正憲氏には過去十年、ブランドデザインスタジオという全学自由ゼミナール授業を担っていただいています。設定されたテーマについて情報収集、フィールドワーク、ブレインストーミングを行い、最終的にまとめた成果を大学外部の方に評価してもらう形で行われています。授業の紹介、及び十年の振り返りを語っていただきました。過去の授業履修者からは、参加したことは教養学部時代の思い出として強く残り、社会に出ても通用したものを得たといった感想が届いているそうです。株式会社学校計画の筑紫一夫氏は現在駒場キャンパスで多くの授業が開かれている21KOMCEE棟が建てられる際に大きな貢献をされた方です。駒場のみならず、他の大学などでも学生の教育のあり方を考えつつ、教育が行われるスペース環境を、建築家である立場から提言され、実現している事例を紹介いただきました。教育環境を新たに創造することの意義を問われました。生産技術研究所の野城智也氏からは、新しい渋谷の顔となったスクランブルスクエアにできた渋谷QWS(キューズ)における活動の紹介がありました。駒場からも近距離に位置するこのスペースにおいて、大学や所属企業の枠を超えた活動を通じて、新しいものが生まれつつある現状の紹介となりました。自然発生的に新たなアイディアなどが生み出されており、教養教育を発信する上で教室という枠を超えた可能性を感じました。
 シンポジウム後半は、教養教育で提供するコンテンツについての紹介をお願いしました。当社会連携部門の特任講師の髙橋史子氏からは大学での学びと社会の接続と題し、企業との連携授業、キャリア教育の実例が紹介されました。駒場生は社会人とのインターラクティブな交流をしたいという潜在的希望を持っているなかで、大学がサポートしているという安心感を持って参加しているようです。進路選択する際の決め手や、今の学びと実社会とのつながりを知りたいと思った際に、解を見出すきっかけとなっています。高橋氏の専門である教育社会学に立脚した多様性と平等とを考える授業も紹介されました。難民問題、教育格差といった問題に気づき、議論されている場となっています。当社会連携部門の特任講師の山上揚平氏からは芸術実践を行う場を提供する授業が紹介されました。感性と知性の協働からサウンドデザインを目指し、映像とビデオゲームを取り扱うといった斬新な試みが紹介されました。芸術と学問との接点を目指し、全ての感覚を動員した教養教育の可能性を感じます。生命環境科学系の新井宗仁氏からは、駒場の高大連携活動の目玉となっている「高校生と大学生のための金曜特別講座」の紹介をお願いしました。二十年の歴史を重ねて今ではオンラインで全国の高校にも発信され、毎回全国から平均千人規模の高校生が聴講しています。さらにこの講座枠は東大のリカレントプログラムの一つとも位置付けられ、東大駒場友の会会員を中心とした卒業生の皆さんにも開かれています。社会人となって、あるいは円熟してから、改めて教養を学びたいと思われる方に届けたい、最新の教養教育が、現役東大教員から発信されていると感じます。
image638_1_2.png シンポジウムでお話しできなかった、リカレントプログラムに関する話題を最後に一つ。海外の大学、例えばシンガポール国立大学(NUS)のキャンパスには立派なAlumni Houseがあります。常時卒業生向けの情報も発信されていて、卒業生が気軽に訪れることができ、イベントや講演会にも参加できる空間が作られています。東大でも将来いつかこうした卒業生との距離の近い場ができることを願っています。
 今後も社会との接点を意識した教養教育のあり方について、アイディア、提案、意見をぜひ当部門へお寄せください。

(教養教育高度化機構社会連携部門長/生命環境科学/生物)

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