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最終更新日:2022.11.07

教養学部報

第638号 外部公開

<本の棚> 國分功一郎・清水光明 編 『地球的思考 グローバル・スタディーズの課題』

竹峰義和

 「グローバル」や「グローバリゼーション」という言葉が一般的な語彙に定着して久しい。新聞やネットを開けば、グローバル経済、グローバル企業、グローバル社会についてのテキストが並び、われわれの身の周りには多国籍企業が製造した商品が溢れている。インターネットを通じて世界各国の情報を得たり、対人的なコミュニケーションを行なったりすることはすでに日常化しており、学術研究や大学教育のグローバル化の必要性も盛んに唱えられている。また、地球温暖化やパンデミックのように、ひとつの国や地域ではけっして解決できない問題をまえに、グローバルな視点に立つことの必要性はすでに共通認識となっている。しかしその一方で、格差の拡大や文化の均質化など、グローバリズムの弊害がますます顕著となるなか、グローバル化の流れをたんに手放しで歓迎することも許されないだろう。
 『地球的思考――グローバル・スタディーズの課題』と題された本書は、「はじめに」で編者が述べるように、「「グローバル」という語の両義性を視野に収めつつ思考する様々な試み」(八頁)から構成されている。具体的には、二〇一九年から二〇二一年にかけて開催された、東京大学大学院総合文化研究科の研究・教育プログラム「グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ(GSI)」の企画による連続セミナー《グローバル・スタディーズの課題》における計一五個の報告が収録されている。報告者はいずれも、駒場に所属する教員(名誉教授も含む)であり、各人の専門分野は、国際政治学、地域研究、国際開発、哲学、文化人類学、比較社会学、宗教学など多岐に及んでいる。また、扱われるトピックも、アメリカ外交史、イギリスの奴隷貿易廃止運動、イスラーム思想史、世界哲学、メキシコの先住民運動、アフリカ研究、インドの近世史、古代ギリシア語の中動態など、実にさまざまである。各報告では、まさにグローバルな次元で活躍する研究者が、グローバル・スタディーズという観点から、みずからの知的関心や研究成果について、実にわかりやすい言葉で解説してくれる。いずれも、それぞれの専門分野や研究領域を知るうえでの優れたイントロダクションをなすとともに、アカデミズムの第一線でいま何が問題になっているのかを鮮やかに浮かび上がらせてくれる。
 本書を通じて改めて実感されるのは、グローバル化という現象が、あらゆる文化的差異を抹消し、一元化していく単線的な過程としてのみ捉えうるものではけっしてなく、ローカルなものと一種の弁証法的関係を取り結ぶなかで、新たな多元性や多様性を作り出していくという可能性を孕んでもいるという点である。本書で提唱されている「グローバル・スタディーズ」とはまさに、国民国家であれ、人間という理念であれ、これまで自明なものと見なされてきた対象を、局所的な視点と俯瞰的な視点とを柔軟に切り替えながら考察することで、新たな側面に光を当てようとする試みにほかならない。そして、そのような「地球的思考」は、東大駒場における学術研究の主要な特徴を表わしているのではないだろうか。その意味で本書は、GSIプログラムが生み出した豊かな成果のひとつというのみならず、それと同時に、駒場の知のエッセンスを凝縮しているのである。
 本書が読者として第一に想定しているのは、グローバル・スタディーズという新しい学術分野や、グローバル化に関心を抱いている者だろう。だが、進学先や将来の進路に迷っている駒場の学生にも、ぜひ本書を一読してみることを勧めたい。というのも、そこにはしばしば、執筆者である駒場の教員が、若いころにどのような知的関心を抱いていたか、いかにして研究者としてのキャリアを形成したのかが、具体的なエピソードを交えつつ紹介されているからである。本書には、若い読者が将来、グローバルな視野で思考・活動するための有益なヒントが詰まっている。

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       提供 水声社

(超域文化科学/ドイツ語)

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