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最終更新日:2022.11.07

教養学部報

第638号 外部公開

<時に沿って> 考える時間

大島芳樹

 二〇二二年四月に着任しました大島芳樹と申します。専門は表現論とよばれる数学の分野です。出身大学院である数理科学研究科に、この度またお世話になることとなりました。駒場キャンパスでは学部・大学院時代を過ごしました。中学・高校も駒場にあったため、合計して十五年間も駒場に通っていたことになります。慣れ親しんだ故郷に帰ってきたような安心感があり、また教員として勤めることに身の引き締まる思いもしています。着任の日、まだコロナ禍で駒場は以前の活気溢れていた記憶と比べて随分静かに感じましたが、対面授業が始まって徐々に賑やかになってきました。
 大学院修了後は、柏にある東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構に三年、大阪大学大学院情報科学研究科に五年在籍しました。私はそれぞれの研究機関の数学部門に所属しましたが、数学以外の研究者がすぐそばにいる環境で異分野コミュニケーションの場がありました。柏では物理や天文、大阪では情報科学、と自分と異なる分野の面白い話を聞きましたが、自分の興味を話す順番では大抵うまく伝わるように話すことができずに悩みました。ここでは研究内容でなく、どう研究していたかを書いてみます。
 これまでのことを思い返してみると、研究を始めたり大きく方向転換するような転機は、大体人と議論したりアドバイスを受けたりしたことがきっかけでした。一方で費やした時間の上では、ひとりで考えている時間が大半を占めています。他人の結果を理解することも自分なりに何か新しいことをするのも、自分は人より時間がかかるようで、とにかくふんだんに時間を必要とします。特に大学院生時代はゆったり考える時間が豊富にありました。机に向かうのに飽きて、よくキャンパスの周辺を歩きながら考えを巡らせました。いま同じ場所を歩くと当時考えていたことを思い出します。駅の階段を下りているときに証明のアイディアを思いついたこと。駒場野公園の田んぼを眺めながら新しい方向を模索していたこと。もちろん常にうまく進むわけではありません。というよりもほとんどの時間はうまくいかずに悪戦苦闘していたわけで、思うようにいかなかったもどかしさもまた蘇ってきます。行き詰まると、家の近所をランニングしながら、あるいは山に出かけてハイキングコースを歩きながら考えました。考え事が進まなくても歩き疲れると充足感があり、心身の安定が保たれました。二年前にコロナが流行りだしてからは自宅にいる時間が多くなりました。考える時間が増えるかと思いましたが、いつでも情報にアクセスできる便利な状況にあって、膨大な情報の前で立ち往生してしまうことがあります。出張移動の飛行機の中など、不便な時間も案外自由に考えを膨らませるのに良い時間だったように思います。
 これからの駒場生活で記憶は更新されていきますが、じっくりものを考える時間を大切にしながら、皆様との交流も楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。

(数理科学研究科)

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