HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報638号(2022年7月 1日)

教養学部報

第638号 外部公開

<時に沿って> 私の駒場とマルクス

斎藤幸平

image638_3_2.jpg 今年度より総合文化研究科超域文化科学専攻比較文学比較文化コースに着任した斎藤幸平です。専門は経済思想や環境思想で、特にカール・マルクスを専門にしています。ここに来る前は大阪市立大学の経済学部でいわゆる「マル経」の経済原論を教えていましたが、久しぶりに哲学・思想を教えることになり、新鮮な気持ちです。
 駒場に帰ってくるのは久しぶりです。実は、アメリカの大学に留学する前、一学期だけでしたが、理科二類に入って、駒場キャンパスで学んだことがあるからです。一学期だけでしたが、私にとっては大きな意味がありました。教養学部の授業をとる中で哲学や政治学にも関心を持つようになったからです。そして、アメリカのリベラルアーツカレッジでは政治哲学を勉強し、その後ドイツでヘーゲルやマルクスの思想を研究しました。そして、晩期マルクスの農学についての思索をベースにして環境思想についての博士論文を書き、その後は気候変動と資本主義との関係を思想的に論じています。
 そうした意味では、十五年以上経って、駒場で哲学や環境思想を教えるようになるというのは原点に帰ったような気分です。同時に、私がアメリカに留学した際、ウェズリアン大学がくれた「フリーマン奨学金」には受給条件が一つだけありました。それは将来母国に帰って、大学で学んだことを社会に還元するというものです。その意味では、リベラルアーツとしての教養学部で教えることができるのは、今は亡きフリーマンさんとの約束を果たすものになるかもしれません。
 さて、かつては隆盛を誇ったマルクス主義も、今や風前の灯になりつつあります。東京大学の経済学部でもマル経のポストはなくなって久しいですし、他の国立大学でも状況は似通っています。これは大変危機的な状況に違いありません。一方で、資本主義のもとでの格差や環境破壊が広がり続けるなかで、冷戦崩壊後のグローバル資本主義への批判が世界的に強まっています。そうしたなかで、マルクスへの関心が世界的にみても高まっています。今後、日本でも、再びマルクスから学ぼうとする学生が出てくるでしょう。日本のマルクス研究を引き継ぎ発展させながら、そのような学生の受け皿にもなれるように、これから研究や教育に取り組んでいきたいと思います。

(超域文化科学/哲学・科学史)

第638号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報