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最終更新日:2022.12.06

教養学部報

第639号 外部公開

数学の新理論の創始 小林俊行教授がフランスで名誉博士に

関口英子

 小林俊行先生が、数学の新しい大理論の創始の功績により、本年六月一〇日(フランス現地時間)、ランス大学からDoctor Honoris Causa(名誉博士号)を授与されました。
数学の絶え間ない発展には、既存の理論の一般化・精密化が不可欠であり、それに挑む優れた数学者が各分野で活躍されていますが、小林俊行教授は異色の数学者で、何もない所に道を切り拓いて新理論を提唱し、自らその基盤を一気に構築して学問領域を興すという、世界でも稀有な「創始型」の数学者として知られています。
 この名誉博士号は、学術の顕著な功績に対して贈られ、最終的にフランス外務省による認定を経て決定されました。ランス大学の名誉博士号は、小林教授が歴代五〇人目となります。今回、三年ぶりとなる名誉博士に日本の数学者が選ばれ、改めて、数学という学問の国際性を感じました。
 ランスは、五世紀末にフランク王国のクローヴィス一世がこの地でカトリックの洗礼を受けた故事にちなんで、歴代の国王の戴冠式が行われたという、ヨーロッパ随一の格式を持つノートルダム大聖堂のある街です。ジャンヌ・ダルクが、シャルル七世の王位継承のために目指したのも、この大聖堂です。戴冠式の長い伝統は一九世紀初頭のシャルル一〇世の即位まで続きます。現在、この地方で生産される発泡ワインのみがシャンパンと呼ばれることを許され、お祝い事に使われるのも、「フランス王家の聖なる地」と呼ばれたランスの格式を抜きにしては語れません。
 この歴史豊かな街で、コロナ禍で長らく途絶えていた国際会議を再開する鏑矢として、小林俊行先生の興した数学の新領域をテーマとする研究集会が開催されました。世界中から著名な数学者が訪れ、三年ぶりの対面での国際会議は活気に満ち溢れていました。
 同じ週に行われた小林教授への名誉博士号の授与式は荘厳なもので、テノールの声楽が随所に盛り込まれ、フランスの高等教育・研究・イノベーション省からの代表や、大学の学長・副学長や教授陣に加えて、多くの数学者の出席のもと、道を切り拓いてこられた小林教授の功績が英語とフランス語の同時通訳で紹介されました。小林先生のご挨拶の後は、聴衆全員が総立ちとなり拍手が鳴りやまず、私は生まれて初めてスタンディングオベーションというものを目の当たりにしました。
 さて数学には、伝統的に代数学・幾何学・解析学と大きく三つの分野があり、さらに細分化された種々の領域があります。小林俊行先生は「対称性」をキーワードとして代数・幾何・解析にまたがる壮大な理論を創生し、数学全体に影響を及ぼしています。なかでも、「リーマン幾何学の枠組みを超えた不連続群の高次元大域幾何学の創始」、「無限次元における対称性の破れを代数的に記述する分岐則理論の創始」、「極小表現をモチーフとする大域解析学の理論の創始」、「可視的作用の概念による無重複表現の統一理論の創始」は、いずれもスケールが大きく、特筆される研究成果として国際的に高く評価されており、数学における本質的なブレークスルーを実現しました。
 今回の朗報の一〇年前にも印象深い出来事がありました。二〇一三年に小林先生の五〇歳を祝賀する国際会議がフランスで開催されたのです。日本人学者の五〇歳の誕生日をヨーロッパで祝賀するという異例ずくめの国際会議でしたが、一世代上の伝説的な数学者を含めて世界中から著名な数学者たちが一堂に会し、小林先生の切り拓いた数学理論について一週間にわたって議論し、市庁舎では小林先生の祝賀会も行われたのです。その際に、クラーク教授(ロレーヌ大学)が数学者としての小林先生を次のように形容されました。

「歴史に残る偉大な数学者には全く異なる二つのタイプがある。
●何もないところから、全く新しい分野を作る天才型
●大聖堂を独力で建造してしまうような最高峰の技術をもつ職人型
小林俊行教授は、一人の人間なのに、この両方に一〇〇%あてはまっている‼」

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 今回の名誉博士の授与式では、フランス人数学者の視点から、小林理論の画期的な先見性と構想の雄大さについての情熱的な解説があり、同時に、小林先生が数多くの優秀な若手数学者を献身的に育てられていることや、小林先生がご自身の創始された理論に記号を導入される際には完璧主義といえるほど徹底した思考を重ね、そのことによって新しい概念の普遍的な本質が理解しやすくなるように工夫されていること等も紹介されていました。
 これらのことは全て繋がっているように思われます。たとえば、微分積分学の創始にはニュートンやライプニッツという天才が必要でしたが、現在では、良い記号法と教育の工夫のおかげで高校生も微積分を計算できるようになっています。小林先生は、深い独創的な数学理論を創生する天才であると同時に、難解な概念をわかりやすく伝えるために膨大な思考を積み重ねられています。
 本学の卒業生でもある小林教授は、二〇代前半から現在に至るまで、学生の教育にも献身的に尽くされています。小林先生には、どうか健康に留意しつつ、今後ますますご活躍されますよう、祈念申し上げます。


(数理科学研究科)

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