HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報640号(2022年11月 1日)

教養学部報

第640号 外部公開

HSPシンポジウム 「人権コロキアム」報告

キハラハント愛

 二〇二二年七月二十三日、東京大学総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム(HSP)と英エセックス大学とが主催し、東京大学の総合文化研究科国際交流センター、同グローバル地域研究機構持続的平和研究センター、ならびに同国際法研修・研究ハブの協力のもと、HSPシンポジウム「人権コロキアム」を開催した。エセックス大学と本学教養学部・総合文化研究科との学生交換並びに研究協力の協定の締結を記念し、二年前から計画されていたシンポジウムが実現したものである。コロナの感染状況により、登壇者・関係者以外はオンライン参加となった。
 昨今のグローバルガバナンスにおいてその価値と実践の方法が問われる、また、「人間の安全保障」の三つの柱のうちの一つである人権をテーマとし、東京大学の教員・学生とエセックス大学からこのシンポジウムのために来日した教員の間で研究発表とそれについての討論を行った。
 開会式では、東京大学からは総合文化研究科・教養学部の森山工研究科長・学部長、HSP運営委員長の星埜守之教授、エセックス大学のパートナーシップ(教育)部のアネシー・ラックス部長から、二大学の教育・研究面における新しい協力体制を歓迎する辞があった。
 パネル1「紛争、安全保障と人権」では、レイモンド・アンダヤ氏(東京大学、博士学生)の司会により、まず、平和維持活動の要員が現地住民からどう見られているかを分析した、ハン・ドルッセン教授(エセックス大学)の発表があった。続く小川浩之教授(東京大学)は、南アフリカがアパルトヘイト政策を取っていた間のイギリスと南アの安全保障政策についての歴史的な検証の結果を発表した。阿古智子教授(東京大学)は、近年の香港における人権と安全保障の状況について発表した。ダダ・ダコット氏(東京大学、外国人研究員)氏がコメンテーターを務めた。
 パネル2「国際法と人権」では、キハラハント愛(東京大学、教授)が司会を務め、まずマリナ・ロスタル氏(エセックス大学)の発表があった。ロスタル氏は国際法上の「被害者」の概念に焦点を当て、ロシアーウクライナ紛争において「被害者」は誰だと考えらえるか検証し、その法的な影響について発表した。続く寺谷広司教授(東京大学)は、COVID‐19と関連の制限により市民的及び政治的権利に関する国際規約上の人権にどのような影響があったかについて発表した。最後にキハラハントが国連のアカウンタビリティの枠組みを国際人権法の視点から検証した。
 パネル3では、「ジェンダーと移民」をテーマとし、戸谷知尋氏(東京大学、博士学生)の司会のもと、初めに後藤晴美教授(東京大学)が国際連盟時代のロシアから中国への難民について発表した。次にジャックリーン・アンダル氏(東京大学、准教授)が移民とジェンダーについて、特にアフリカ大陸からイタリアへの難民についての政策と、彼らがイタリアに定住する能力について発表した。最後にアネシー・ラックス氏が発表し、紛争地において演劇を作成し披露する女性たちが使う、クリエイティブな参加推進の方法について論じた。コメンテーターは土田千愛氏(東京大学)が務めた。
image640_1-2.jpg 最後のパネル4「ボディリー・オートノミー(からだの自己決定権)と人権」では、ウェイン・マーティン教授(エセックス大学)の司会のもと、初めにマーティン教授が高齢化の進む社会における人権と法的能力について、近年の動向を発表した。次にマット・ロッダー氏(エセックス大学)が同意と性的ボディリー・オートノミーについて、イギリスの貴族院の判例R v Brownを取り上げて検証した。続いて、イサベル・ジロドゥ教授(東京大学)が、環境についての法的な枠組みについての考察とエコフェミニズムについての発表を行った。コメンテーターは、水島俊彦弁護士が務めた。
 シンポジウムは東京大学教養学部・総合文化研究科の国際交流センター長である受田宏之教授の閉会の辞で閉幕した。事後のアンケートでは、「関係ないと思っていた分野が人権と密接な関係があるということが分かった」、「人権について専門的な発表・討論が聴けてとても良かった」などの意見があり、全体的に人権という大きな枠についての理解を深めるとともに、各分野の最先端の研究を登壇者・参加者で討論する貴重な場となった。

(地域文化研究/英語)

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