HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報640号(2022年11月 1日)

教養学部報

第640号 外部公開

<時に沿って> 集合知と人工知能と私

馬場雪乃

image640_3-1.jpg 二〇二二年七月に広域科学専攻広域システム科学系に准教授として着任した、馬場雪乃と申します。専門は人工知能で、特に、集合知のための機械学習を研究しています。集団の意見から信頼できるものを見つける技術や、多様性に配慮した意思決定の支援技術を開発しています。
 せっかくの機会なので、自分がなぜ今ここにいるのかを考えてみたいと思います。ソフトウェアエンジニアだった父の影響で、幼少期からコンピュータは私にとって身近な存在でした。MSXという初期規格のパソコンの端末が、なぜか子供部屋に置かれていました。小学生の頃に、それを使うとプログラミングなるものができることを知り、図書館で本を借りてBASIC言語によるプログラミングを始めたのが、私が情報系の道に進むきっかけです。コンピュータは、こちらの指示通りに動き、指示に誤りがあるとエラーを明確に返してくれます。そのような、人間相手よりも単純化されたコミュニケーションが面白かったように記憶しています。
 その後、女子学院中学校に進学します。小学生の頃の私は、周りに合わせることができず、同級生と上手く交流することができませんでした。女子学院は自由と自主性を重んじることで有名な学校で、ここなら受け入れられるのでは、という思いで進学しました。しかし、入学して最初の国語の授業で、自分が出した意見が、他の同級生たちから全否定されるという経験をします。今から考えると、意見が突飛すぎたのだと思います。また、伝え方も上手くなかったのだと思います。しかし、同様の経験を繰り返し、同級生の中に暗黙的に形成されていくヒエラルキーを感じる中で、「この人たちは、意見の内容ではなく発言者を見て、賛成するか否かを決めているのではないか」と、被害妄想気味ではあるのですが、そのように考えるようになりました。ちょうどインターネットが家庭に普及し始めた時代で、顔を出さずに匿名で会話ができるインターネットの方に気楽さを感じ、のめり込んでいきます。結局、高校一年生で中退し、大学入学資格検定を経て東京理科大学に入学しました。
 私と人工知能の最初の出会いは、おそらく、小学生のときに見た「新世紀エヴァンゲリオン」の人工知能MAGIだと思います。MAGIは、開発者の三種類の思考パターンがそれぞれ搭載された三つのシステムから構成される、合議制の人工知能です。舞台である第三新東京市の政治はMAGIによって行われるなど、人間を超えた万能の存在として描かれています。コンピュータ好きの子供だったため、「たしかに政治は人工知能がやった方がいい」というナイーブな感想を持ちました。そもそも周りに馴染めない子供だったので、人間同士のしがらみよりも、コンピュータの合理性を好んだのだと思います。
 大学院は、東京大学大学院情報理工学系研究科に進みました。インターネットと人工知能が二大興味だったため、大学院では、インターネットに蓄積される情報や人々の投稿から、知識を獲得する人工知能の研究を始めます。また、人工知能を賢くするために、より能動的に人間を使う方法の研究へと進んでいきます。この頃に、ある先生に「政治は人工知能がやった方がいいですよね」という話をしたところ、「政治で重要なのは、意思決定の結果よりも、人間が意見をすり合わせて合意形成していくプロセスだ」という指摘を受け、衝撃を受けました。このことがきっかけで、何もかもを人工知能が決めるのではなく、人間同士の意思決定を人工知能で支援するという方向へと、興味が移りました。長々と自分語りをしましたが、本学にて、このようなことに興味がある学生と一緒に研究ができれば嬉しく思います。

(広域システム科学/情報・図形)

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