HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報641号(2022年12月 1日)

教養学部報

第641号 外部公開

駒場図書館 二〇周年を祝して

石田淳・石原あえか

image641_1-1-1.png 駒場図書館長 石田 淳

 二〇〇二年に竣工した図書館は、二つの図書館が合体したものである。二つの図書館とは、一つは、一九六九年から現在のアドミニストレーション棟の位置にあった教養学部図書館であり、もう一つは、一九六七年から八号館にあった教養学科図書室(一九九六年に八号館図書室と改称)であった。図書館の建物は一つだが、このような背景もあって、この図書館に二つの歴史が合流している。
 前者は、旧制一高図書館(現在の駒場博物館)を前身とするもので、学部前期課程における学習・教育の支援を主たる任務とした。ここまでは明らかだが、これに対して後者は、前者とちょうど同じように教養学部後期課程全体の図書館であったか。それは必ずしも適切な整理ではない。
 そもそも教養学部の後期課程には、教養学科のほかに基礎科学科(一九六二年設置)があり、一九六六年には、自然科学図書室(一九九七年から一六号館に移転)が設置された。その一方で、教養学科それ自体も一九七八年には三分裂し、社会科学系の教養学科第三が図書室を別置したため、教養学科図書室における社会科学系の図書の占める割合は限られた。
 このように、図書の分散と統合の歴史ははなはだ興味深い。にもかかわらず、自然科学図書室、アメリカ太平洋地域研究センター図書室なども含む、駒場キャンパスにおける図書館・図書室の全貌を歴史的に通観できるような文章は管見の限り見当たらない。いったいこれはどうした訳かと思う。駒場五〇年史編集委員会編『駒場の五〇年、一九四九―一九九九』(東京大学出版会、二〇〇二年)に収められている長尾龍一「駒場図書館史」は、現在の農学部敷地にあった一高図書館から筆を起こすもので歴史を見渡せるが、その関心は教養学部図書館に絞られていた。
 図書の分散や統合は、目指すべき学知のあり方によって方向づけられる。知の専門分化の推進は図書の分散を、逆に総合的な思考の探求は図書の統合を要請しよう。今、駒場図書館では「駒場図書館という学際知型ライブラリー」の構想の下、Ⅱ期棟の建設を目指している。人類社会の課題は、総合知なくしては解決できないと考えるからである。駒場図書館の新境地が、ここに開けることを心から祈る。

(国際社会科学/国際関係)



image641_1-1-2.png 総合文化研究科図書館長 石原 あえか

 二〇二二年十月二日、「駒図」は二〇歳の誕生日を特大ケーキで祝った。関東大震災で焼失し、一九二八年に再建された本郷の総合図書館から見れば〈新参者〉だろうが、今春、荻生徂徠資料の寄贈も受け、頼れる大学図書館として着実に成長している。
 お祝いの記事に「縁起でもない」と叱られそうだが、筆者は詩人ゲーテが終生監督官を務めたヴァイマルのアンナ・アマーリア公妃図書館大火災(二〇〇四年九月二日)を目の当たりにしている。本で満杯の旧館から念願の新館への引っ越し作業中、屋根裏の電気ショートが原因らしいが、一夜にして貴重書を含む約五万冊が焼失、六・二万冊が火または消火用水による被害を受けた。屋根を突き抜けた火柱、夜空に舞う火の粉と大量の本の燃え端は今も脳裏に焼きついている。地震とは無縁のドイツにもかかわらず、さらに二〇〇九年三月三日には、大学院生として過ごしたケルンで、地下鉄工事による地盤崩壊により、ケルン市歴史文書館が倒壊、所蔵史料が破損・水没する大事故が起きた。〈紙の本〉の衰退が話題になる中、この二件の災害は、紙媒体の弱さだけでなく、満身創痍になっても修復できる強さも教えてくれた。
 研究ではデジタルデータも活用するが、〈紙の本〉の重み・厚み・香り・手触りを通した情報量は格別だ。本という小宇宙には、時空を超えて託されたメッセージがぎっしり詰まっている。しかし自然災害の多い日本で、図書館の蔵書・資料を管理し、継承することは、当たり前のように見えて、決して簡単ではない。本棚が林立する豊かな知の空間を歩く時、その喜びと楽しさを味わいながら、〈一期一会〉の覚悟で本と向き合う。
 図書館は、利用者である「人」と同様に、時とともに成長し、進化する。コロナ禍が契機になって駒図で読める電子書籍数も急増した。資料を収集・保管・提供するだけでなく、利用環境の提供・改善も重要な課題になっている。これは同時に図書館業務の拡大と複雑化を意味する。駒図の歩みについては、ぜひ九月末から始まった常設展「こまとちゃんと知の遺産」をご覧あれ。「こまとちゃん」のキャラクターも少しずつ変化していくはず、その変貌も楽しみに、「駒図」が健やかで幸せな成長を続けるよう祈念し、この節目を寿ぎたい。

(言語情報科学/ドイツ語)

駒場図書館開館20周年記念事業:https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/komaba/event/20220921

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