HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報641号(2022年12月 1日)

教養学部報

第641号 外部公開

ギフテッド創成寄付講座の紹介
〜多様な個性・能力や興味・関心を持つ、誰もが生き生きと暮らせる社会を目指す〜

池澤 聰

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 ギフテッド創成寄付講座は、一般社団法人インクルーシブパレットの寄付金によって二〇二〇年四月に東京大学大学院総合文化研究科に設置されました。本講座は、「一つまたは複数の領域において、同じ年齢、経験、環境の人と比べて、より高い水準の能力を発揮している、または発揮する能力を持つ(定義:National Association for Gifted Children)」といった〝ギフテッド〟の特徴を持ち合わせると想定されるものの、多様な背景因子の影響により潜在能力を十分に発揮できない状態にある人々に対し、認知機能と心理社会的機能を検証し、介入ターゲットを明確化する評価方法を開発することを目標としています。

 ギフテッドの特徴を持つ人々はさまざまな感覚的情報も大量に取り込み、そこに強く反応する〝Overexcita­bility(略してOE。過度激動、過興奮性などと訳されます)〟 という特徴を持ち合わせています。この特徴によって、周囲の環境からのさまざまな刺激を繊細かつ激しく感じ、それらに対して激しく反応してしまうために、周りの人々からは問題行動・逸脱行動と判断されることもあります。このような問題に直面した場合、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害などの、いわゆる「発達障害」との診断が下されることもあり、結果として、その能力を生かした適切な支援が行われていない現状があります。また、ギフテッドの人々の能力は、必ずしも全領域で押し並べて高いというわけではなく、個人の中で能力のバラツキが生じていることが少なくありません。海外の調査によれば、個人内の認知機能下位領域間における能力のバラツキの大きさは、一般健常者よりもギフテッドの人々の方が顕著であり、バラツキの大きさは情動制御の悪さや不安・緊張特性の強さとも関連が強いことが指摘されています。しかし、本邦における、その実態は把握されていないことから、当講座では、ギフテッドの特徴を持ち合わせると想定される方々の認知機能及びOverexcitabilityに関する横断的観察研究を行っております。現在も被験者募集を続けておりますが、将来的には個々の臨床背景・能力特性を考慮した支援方法や環境調整方法の開発につなげることを目指しています。
 さらに、このような問題に直面するギフテッドの人々は、当事者のみならず、彼らの保護者たちもストレス、育児困難感、不安を強く感じ、周囲から理解が得られにくく、孤独を感じているようです。その背景には、①子どもの成長や自分たちの子育て経験について話し合える場が極端に少ない、②場合によっては家族や友人にも、自由に話すことができない、③ギフテッドの子育てに特化した情報を持っている人がいない、などが想定されます。欧米では「ギフテッド児を持つ親が互いに交流し、学ぶことができるように、ファシリテーターが支援、指南、専門的なアドバイスを提供する」ディスカッショングループが開発されておりますが、同プログラムが本邦においても実践可能であるかを確認するための予備的研究に着手したところです。
 さまざまな体験を経て成人期まで至ったギフテッドの方々は、異口同音に社会適応の困難さを言及するとともに、先行しているステレオタイプの「ギフテッド」イメージも影響して、生きづらさが強まり、自尊心も低下しうるようです。中には、一般企業などで安定した就労を果たせない方もいらっしゃいます。そのような場合の支援としては、当事者には自身の特性理解を促す関わりを重ね、それと同時に、企業側には個々の特性に合わせた環境整備が求められます。対面支援で行われるのが一般的ではありますが、ギフテッドの方々の特性を考慮した場合にはメタバースなどの技術を応用した支援の有用性も期待されることから、社会実証に向けて検討し始めました。

 以上のように、当講座では、ギフテッドの特徴を持つ方々を対象として、個々の能力特性を配慮した評価方法や支援方法の研究・開発を実施してきております。それと並行して、現在の教育システムや就労システムに馴染みづらい当事者からのさまざまな声が届いております。居場所となる場への橋渡しを行う必要性が高まり、当事者自らが自分の個性を見つめ、発見・探究し続けられる「居場所」の仕組みづくりにおける豊富な経験とノウハウを持っている、一般財団法人ロートこどもみらい財団と株式会社SPACEと二〇二二年七月二十一日に連携協定を締結いたしました。今後は自治体などとも活動をともにしながら、誰もが生き生きと暮らせる「ウェルビーイングな社会の実現」を目指して活動をしてまいります。当講座の活動や取り組みにご興味がある、教員、研究者、学生の皆様、ぜひお声がけください。

(ギフテッド創成寄附講座)

当寄付講座ホームページ https://www.gifted.c.u-tokyo.ac.jp/

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