HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報641号(2022年12月 1日)

教養学部報

第641号 外部公開

<時に沿って>ひとのためになる研究と教育を目指して

橋本講司

image641_4-3.png 二〇二二年九月より総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系助教に着任いたしました、橋本講司と申します。教員としては主に教養前期課程の基礎化学実験実習を担当いたします。よろしくお願い致します。
 私は統合自然科学科の前身である生命・認知科学科で学士を、そして、このたび着任させて頂く広域科学専攻生命環境科学系で修士と博士を修めました。大学院生の時には、太田邦史先生の下で抗体医薬を作製するための技術開発に従事しました。学位取得後はアメリカに留学し、西海岸と東海岸、カルチャーの違う二つの地域でポスドクをする機会に恵まれました。カリフォルニアでは自然界には存在しない人工のDNAを遺伝子として利用する合成生物の開発を行い、フロリダでは細胞医薬に応用可能な抗体の開発を行いました。特にカリフォルニアで出会った「人工核酸を使って生物をプログラムする」研究にはさらなる発展の可能性を感じていて、今後も自分のアイデアを注ぎ込み共同研究者も募って生涯を通して挑戦していきたいと考えています。帰国後は名古屋大学でmRNAワクチン作製の基盤技術開発にも関わりました。以上が私の研究遍歴でして、我ながら気ままに物色してきたなと、振り返ってみて思います。ただその時々で自分が面白いと思えるバイオテクロジーを追い求めて移動し、その先々でしか得られない学びを体得できたと自負しています。未熟な自分を受け入れ育ててくれた各地の同僚に感謝です。そして縁あってこの度、母校で研究をする機会を頂くことができました。これまではどちらかというと一研究員として、所属した研究室で与えられた仕事に最大限打ち込んできました。今後は「橋本講司」という研究者の名刺がわりとなるような唯一無二のバイオテクノロジーを作り出せるよう、メンターである佐藤守俊先生にも指導を仰ぎながら、今まで以上に研究活動に邁進する所存です。ですので、本学の先生方が既に展開されている最先端の研究にも、私を積極的に巻き込んで頂けたら幸いです。
 さてCOVID─19のパンデミックは世界中の人々の生活を困難にしました。私自身も留学先のアメリカで厳しいロックダウンに遭い、異国の地で友人と直接交流できない孤独を味わいました。私が専門とするバイオテクノロジーを始めとする科学技術は、確かに人類を救いましたが、個人に焦点を当ててみるとどうでしょうか?個人の価値観はそれぞれ違うはずで、パンデミックによる急激な社会の変化に対する感じ方も人それぞれでしょう。たとえ困難な状況でもそれを乗り越えて個人が能力を発揮するためには、その人の価値観に合った生活環境に居ることが重要で、多様性に富んだここ駒場キャンパスには学生にとって居心地の良い場所が必ずあるはずです。私自身も学生時代、様々なバックグラウンドの先生方や友人との対話を通じて多様な価値観を学んだことが、生きる上での支えになったこともありました。教員となった今、当時の学びを学生のために生かし、学生個人個人の価値観に寄り添った教育を心がけたいと思います。

(生命環境科学/化学)

第641号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報