HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報641号(2022年12月 1日)

教養学部報

第641号 外部公開

<時に沿って>妙手を求めて

角田峻太郎

image641_4-4.jpg 二〇二二年九月一日付で総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系に助教として着任しました角田峻太郎(すみたしゅんたろう)と申します。このたび自己紹介をする機会を頂きましたので、駄文ながら少し身の上話をしたいと思います。  私は高校三年生までを群馬県で過ごし、京都大学理学部へ入学しました。入学当初は数学や物理に興味があり、その周辺の勉強を色々やっていたのですが、大学で習う抽象度の高い数学についていくのが段々難しくなり、半ば消去法的に物理学を選ぶことになりました。実際に決断したのは二回生で幾何学の講義を受けているときで、当時自分が思っていた「幾何」の印象(何となく図形的なイメージ)と先生が板書している内容があまりに結び付かず、「あぁこれは無理だな」と思った記憶があります。これに関しては学問に粘り強く取り組む姿勢が不足していたなと反省もあるのですが、そんな私は三回生から物理系に進み、大学院では物性理論を専門とするようになりました。博士課程の頃辺りから「トポロジカル物性」という、波動関数の位相幾何学的な性質が物性に与える影響を研究する分野に多く携わるようになり、(純粋数学とは程遠い形ではあるものの)幾何学と改めて関わることになるのですから不思議なものだなと感じています。私は主にトポロジカル超伝導と呼ばれるものの研究を行っていたのですが、対称性やトポロジーといった数理的な手法を使うことで、超伝導体の詳細によらずに物性を(ある程度)予言できるといったところに魅力を感じ、一生懸命計算をしていました。
 学位取得後は理化学研究所で二年半ほどポスドクとして過ごし、東京大学の教員となりました。東京大学に所属するのは初めてでまだ右も左も分からないような状態ですが、せっかく新しい環境に移ったことですし、トポロジカル物性や超伝導とはまた違う分野にも挑戦できたら良いなと考えています。私自身は人と議論することでアイデアが産まれたり新しい方向性が見えたりすることが多いので、幅広い分野の先生方や意欲的な学生さんが多くいらっしゃるこの駒場で研究ができることにワクワクしております。
 さて一方で、ここ二、三年はいわゆる「おうち時間」を過ごすことも増えました。私はよくネット中継されているプロの将棋の対局を観るのが好きなのですが、将棋の世界でも事前研究に流行りのAIを取り入れる人がかなり増えているようです。しかしそんな機械的なイメージとは裏腹に、人間同士の対局ではその人の個性(棋風)や気持ちが滲み出たような一手が飛び出したりするので面白いものです。将棋界のレジェンド・谷川浩司十七世名人の有名な言葉に「棋士は『勝負師』と『研究者』と『芸術家』の三つの顔を持つべきだ」というのがありますが、この人間らしい『芸術家』の側面に惹かれるものがあるのかなと思っています。我々科学者も昨今はその在り方を問われる時代ですが、こうした個性や芸術性を磨くことを忘れず、魅力ある研究者・教育者でありたいななどと考える今日この頃です。

(相関基礎科学/先進科学)

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