HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報642号(2023年1月 5日)

教養学部報

第642号 外部公開

数理科学研究科設立30周年

数理科学研究科長 斎藤 毅

image642_1_01.png 十月十五日(土)のホームカミングデーに、数理科学研究科の設立三十周年記念イベントがありました。数理科学研究科は駒場Ⅰキャンパスにあり、理系の数学の必修科目である線型代数学や微分積分学だけでなく文系の数学の選択科目も担当する、教養学部のみなさんと関わりの深い部局です。
 数理科学研究科は三十年前に、本郷にあった理学部の数学科と、駒場にあった教養学部の数学教室と基礎科学科の数学教室の三つが統合して誕生しました。当時の教養学部の数学教室は、現在の駒場図書館やイタトマの位置に駒場寮と並んで立っていた、一研とよばれる歴史を感じさせるとともにカビの匂いの漂う建物の中にありました。そこから見ると矢内原公園の向こうに、数理科学研究科設立後まもなく数理棟が建てられ、本郷や一研から教職員と学生が引っ越してきました。
 ホームカミングデーは、毎年同窓会関係のイベントが集中して行われる、卒業生が大学に帰ってくる日です。コロナ禍ということで記念式がどのような形での開催になるか気がかりでしたが、パーティーはさすがに無理であったものの、それ以外はハイブリッドで開催することができました。数理棟の大講義室にソーシャル・ディスタンスは保てる程度におおぜいの人に来ていただけたのは、うれしいことでした。
 当日のプログラムは、記念コンサート、総長、来賓、関係部局長の方々の祝辞、数理科学研究科の教員、元教員による講演の三部構成でした。それぞれから簡単に紹介します。
image642_1_02.jpg 記念コンサートは、ピアノの中島さち子さんをはじめとする四人の演奏でした。中島さんは数学オリンピックで金メダルもとられた理学部数学科の卒業生で、現在は数学と音楽をテーマに幅広く活動されています。コンサートでは、数学と音楽のつながりを表現する映像も効果的に使われていました。私にとっては久しぶりの音楽のライブ演奏で、演奏者どうしが目を合わせながら息を合わせていくようすも間近で見られて、楽しいコンサートでした。
 教養学部長の森山工先生にもご挨拶をいただきました。教養学部と数理は同じ駒場キャンパスにあるという以上の深いつながりがあります。はじめに書いたように、数学の講義を担当するというのはもちろんですが、芸術創造連携研究機構にも数理から二名の教員が加わっています。教養学部といえばリベラルアーツですが、古代ギリシャに遡る自由学芸六科の中で大きな位置を占めるものが現代で言えば語学と数学であり、それが教養学部前期課程の教育につながっているというお話もありました。STEAM教育と最近言われる中でAとMはArtとMathematicsですが、三角形の角の二等分線が一点で交わることの美についてのお話に、森山先生の数学愛が感じられました。
 来賓のお一人の亀澤宏規三菱UFJフィナンシャル・グループ代表執行役社長は、数理の前身の理学系研究科数学専攻のご出身ですが、たまたま私の同級生です。当時は数学科の卒業生の就職先の業種はわりと限られていましたが、その頃から徐々に始まった銀行をはじめとする「文系就職」のトップランナーです。その当時は今と違って大学院の教育で数学の社会での活用の話などは全くと言ってよいほどありませんでしたが、そのように純粋な学問としての数学を学んだ経験の価値について語られていたことが印象に残りました。
 最後は、数理の小林俊行教授と石井志保子名誉教授の講演でした。小林先生のお話は、無重複表現とよばれる「ただ一つ」であることが重要な対象についてのお話でしたが、漱石の「夢十夜」の中の運慶の話を引いて、木の中に埋まっている像がただ一つでなかったから明治の人にはうまく掘り出せなかったとたとえられていました。石井先生は、数理の歩みと日本社会の変化を対比させながら、どちらにとっても大きな課題であるダイバーシティへの取り組みについてお話いただきました。
 これまでの三十年の数理のあゆみを振り返る貴重な時間でした。

(数理科学研究科)

第642号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報