HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報642号(2023年1月 5日)

教養学部報

第642号 外部公開

<時に沿って> 学習者の声に耳を傾ける

根本愛子

image642_4_01.jpg 二〇二二年九月一日付でグローバルコミュニケーション研究センター准教授を拝命しました根本愛子です。英語プログラム(通称PEAK)や交換留学生対象の日本語科目を担当しています。
 初海外だった高校の修学旅行、万里の長城で日本語を駆使する土産物屋に衝撃を受け、大学では日本語教育学を専攻しました。トルコの大学と高校で日本語を教えた後、日本国内の日本語学校で教えながら、一橋大学言語社会研究科日本語教育学位取得プログラムに社会人枠で入学しました。在学中も、他大学での非常勤やNHK News Web Easy「やさしい日本語ニュース」の仕事をしたり、休学してカタール教育省語学教育センターに行ったりと、社会人学生として大学院生活を満喫しました。学位取得後、国際基督教大学日本語教育課程を経て、二〇一七年に講師として駒場に着任し、今に至ります。
 現在の研究テーマは、日本国内の英語プログラム在籍学生の進学先決定プロセスですが、大枠は日本語学習者の日本語学習という行為の選択動機です。このプロセスを理論的モデルとして提示するため、学習者へのインタビュー・データを分析する方法を取っていますが、これにはカタールでの経験が強く影響しています。
 私のカタール行きは現地での日本語講座の立ち上げのためで、日本サイドからは「日本のポップカルチャーをきっかけに日本語を学びたいという人が増えたから」だと言われました。当時はクールジャパンが日本語学習動機としても取り上げられ始めた頃で、カタールにも「日本のアニメ、ドラマ、J‐POP大好き!」という人がたくさんいました。ですが、現場に入ってみると違和感がありました。アニメ愛を熱く語る学生ほど講座に来なくなるのが早かったり、某大学の日本アニメクラブに日本語講座のチラシを持って行っても、全然受け取ってもらえなかったりしたからです。反対に、講座の学生に日本文化関連イベントを紹介しても、スルーされることもありました。聞いている話とは何かが違うように思いつつも、何がどうしてどう違うのかがわからず、悶々とする日々でした。
 そんなある日、講座の学生たちと日本人会のパーティーに招待されました。そこで、日本語を始めた理由をきかれた学生が「アニメが大好きで」と答えたのです。以前「アニメは子どもの頃の話だし、日本語とも関係ないし」と言っていた学生です。一体どうして......?裏で尋ねると、その学生は笑顔で「アニメと言うと日本人は喜ぶからサービスです」と答えました。つまり、「日本人はポップカルチャーが日本語学習動機となると思っている」ことを知っている学生は、日本人が喜ぶ話をしただけであって、実際の学習動機は学習者からは語られていなかったのです。ショックでした。ですが、これまでのことが腑に落ちた瞬間でもありました。
では本当のところはどうなのか、それを知るには学習者に聞くしかないとインタビュー分析を始めた次第です。今後も「学習者の声に耳を傾ける」ことを忘れず、精進したく思います。何卒よろしくお願いいたします。

(グローバルコミュニケーション研究センター)

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