HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報644号(2023年4月 3日)

教養学部報

第644号 外部公開

<時に沿って> バランス

増田弘毅

 早稲田大学で学部時代を過ごし、その後本学数理科学研究科へ進学、そして学位取得直後の二〇〇四年度に九州大学へ助手として着任しました。私の研究者としてのキャリアは国立大学の独法化に合わせて始まったことになります。振り返ってみると、学部から大学院にかけての出会いと環境こそが人生の転機でした。
 学部では情報数学とプログラミングに魅力を感じ、当時の理工学部情報学科へ入学しました。在籍中に確率・統計という分野に漠然とした興味を抱き、あまり深く考えずに勢いで研究室を選択したこと、おぼろげながら記憶に残っています。しかしそれが後の生業の起源になるとは、日々麻雀に明け暮れていた当時の自分には微塵も想像できませんでした。
 当然ながら大学院へ入ってからはそれまでとは打って変わり、専門的内容の勉強が主体の生活を送ることになります。当時の指導教員には個別セミナーで大変な思いをさせてしまっていましたが、その導きが土台となり、研究者の道へ進むことができました。ちょうど世紀の変わり目の頃、進路相談の折に、博士課程進学は大変だから止めておけと諭すように言われたこと、今となっては良い思い出です。あの時無理を受け入れてもらえて本当によかった。出会いの大事さ、そして選択の紙一重さを身にしみて感じます。
 そのような経緯で、院生時代からずっと確率統計学を専攻しています。確率統計学は実在するのか分からないランダムな世界を設定して展開されるため、始めは内容のぼやけた応用数学分野に見えるかもしれません。しかしそこには、データに潜む不確実性を確率分布で表現して逆問題を扱うという数学が在ります。実体が掴みにくい一方で昔から人間の生活に根付いた応用数学であること、私は確率統計学のそんな一面に魅了されて現在に至ります。理論と実用(計算可能性)の重要性が共存するため、応用数学の中でもとくにバランス意識・柔軟さが要求される要素が大きい分野と言えるでしょう。そしてこれこそが確率統計学の醍醐味である、折に触れてそう感じます。
 幸いにも、これまで国内外多くの土地を訪問し異文化に触れる機会に恵まれてきました。自分の感性を磨いて研究と余生に反映させてゆきたいところですが、それを継続するにはそれ相応の体力とメンタルの維持が不可欠だ、と思うこの頃です。これからも時に沿った無理のない心身の鍛錬も忘れず、ときに真剣に、またときに怠けつつ、バランス良く日々を過ごしてゆきたいと思っている次第です。
 学部卒業までさまざまな回り道を通った上で駒場での現職に就けたことは、今の自分にとって大きなプラスになっています。文末になりますが、この場をお借りして、就職するまでの両親のサポートにあらためて感謝したいと思います。

(数理科学研究科)

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