HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

密に詰め込まれた大きさが極端にばらついた粒子 ばらつきによらない共通構造の発見

柳澤実穂

 極端に大きさがばらついた粒子がランダムに詰め込まれた構造は、岩石や河原の砂利、瓦礫、石鹸の泡の粒など、自然界にひろく見られます。こうした構造の普遍的な性質を明らかにするため、実験と理論の両面から研究が進められてきました。従来研究では、粒子がすべて同じ大きさの場合や、二種類の大きさの粒子を混合した場合のように、ばらつきが小さな系を考えることが一般的でした。これは、大きさのばらつき方が様々にあり得るために系統的な解析が困難であること、粒子の作製が難しいことなどが理由です。それゆえ、自然界で見られるようなばらつきの度合が非常に大きな系はあまり扱われてきませんでした。
 本研究では、ばらつきが極めて大きな系として「大きさがべき分布にしたがう粒子」を研究しました。これは、大きさが半分の粒子が二倍の数だけ存在するというような設定で、小さな粒子ほど多く含まれます。べき分布にしたがう粒子は衝撃による破壊などの現象で生じることが知られているほか、隙間なく配置できるという特徴があります。実験では、水の中にいれた油の粒を繰り返し破壊して小さくすることで、大きさがべき分布に従う粒子を準備しました。それを狭い板の間にランダムに配置し、外側にある水の蒸発によりゆるやかに圧縮されて密に詰まった構造を解析しました(図1)。この系は、大きな粒子と小さな粒子の重なり合いを防ぎ、多数の粒子からなる構造を解析できる利点があります。またシミュレーションでは、互いに反発する円形粒子をランダムに配置し、実験と同じく緩やかに圧縮することで粒子を詰め込みました。

image646_02_3_1.jpg図1

 大きさのばらつき(指数、a)と構造の関係を明らかにするため、各粒子が接する粒子の個数分布(接触点数分布)を解析した結果、大きさの指数aが3以下の条件では、共通の接触点数分布が現れることを発見しました(図2・a)。一般に、粒子の集団は密度がある閾値を超えると流れる性質を失って固体のようにふるまうことが知られています(ジャミング転移)。ジャミング転移点における密度を調べたところ、共通した接触点数分布がみられる条件の一部(2 < a < 3)で、ばらつきが小さな系よりも顕著に高密度となり、粒子をより隙間なく詰め込むことができることがわかりました(図2・b)。一般に粒子は、その大きさの平均などの特徴的な大きさを持っています。しかし、上記の普遍的な性質がみられた極端に大きさがばらついた条件(指数が3以下)では、個々の粒子の大きさの影響が弱まることで特徴的大きさが見えなくなり、むしろばらつきに依らない共通した構造が現れたと解釈することができます。

image646_02_3_2.jpg図2

 今回の発見は、自然界にみられる岩石や砂利、瓦礫などを、極端に大きさがばらついた粒子とみなすことで、ばらつきの背後に潜む普遍的な構造や性質を見出だせる可能性を示しています。またこうした考え方は、目に見えるマクロな系だけでなく、生物細胞に含まれる分子のように、熱ゆらぎの影響を強く受けるミクロ系においても適用できるかもしれません。細胞内で密に詰め込まれた分子では近年、ジャミング転移に似たガラス転移という現象が休眠といった機能と呼応して生じることが示唆され、その物理的解明が待たれています。それゆえ今後は、大きさがばらついたマクロとミクロの両方の粒子に対して、固さや振動などの特性や、破壊や変形の過程についても研究を進め、最終的には地震や細胞内ガラス化といった多様な現象の物理的解明へ繋げることを目指します。

(相関基礎科学/先進科学)

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