HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

<時に沿って> 学問との出会い

九島佳織

 この春、国際社会科学専攻の助教に着任しました。学生の皆さんには、「国際政治」の授業の中でお会いすることになるかもしれません。
 私は東京大学にご異動される恩師を追いかけて、国際社会科学専攻国際関係論コースの博士課程に入学しました。駒場に来てから今年で五回目の春を迎えましたが、自身を駒場の人間と言えるほどの自信はまだありません。また、私は前年度の三月に博士号を取得したばかりで、大学教員としても新参者です。そういった事情から、私は今新入生の方と同じくらい緊張と不安を感じながら二号館の助教室で毎日を過ごしています。
 専門は比較政治学及び国際関係論で、革命やクーデタといった制度外の行為による体制変動を中心とした民主化研究を行っています。私は今でこそ政治学を専門領域としていますが、学部生の頃は国際協力に興味を抱いていました。当時は長期休暇には国際NGOの活動や大学のプログラムを通じて発展途上国を渡り歩き、ヤモリと野良犬に囲まれながらカエルのスープを食したり、軍の監視の下で小型船舶に六時間乗って漁村を訪れたりもしました。その一つ一つの経験は刺激的でしたし、それらから地球規模の課題解決に向けた取り組みの重要性を肌で感じることができました。しかし、目の前の問題を解消するために「どう」すべきかということはわかっても、このような問題が「なぜ」生じているのかということまではわかりませんでした。
 その問いに答えをくれたのが、国際関係論です。大学院の授業ではじめに教わったのは、国際関係理論を基層として捉えるというものでした。現実の出来事は目に見える現象であり地表に表出している。その出来事が「なぜ」生じたのかを分析するには、穴を掘って表面下で何が起こっているのかを探らなければならない。つまり、ボーリングの作業である。その作業を以て初めて出来事の本質を理解し、「どう」すべきかという答えを地表に積み上げることができる─。そういった内容でした。私はこの話を聞いた時に衝撃を受けました。そして、それからはフィールドに関心があったのが嘘かのように地面に穴を掘り続けており、地中での暮らしを満喫しています。私の稚拙な説明では皆さんに伝わりにくかったかもしれませんが、大丈夫です。この話をしてくださった先生は、今は駒場にいらっしゃいます。ぜひ授業を受けてみてください。
 今回、博士から受け入れてくれたこの駒場に携わる機会をいただいたからには、こうした理論的研究の面白さを発信できるように、研究及び教育活動に取り組んでいきたいと考えています。

(国際社会科学/国際関係)

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