HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

<時に沿って> 教育のダイナミズム

黒川宏之

image646_04_1.jpg 二〇二三年四月一日付けで広域システム科学系(宇宙地球部会)の准教授に着任した黒川宏之です。地球惑星科学を専門としており、「惑星の起源と進化の解明」を研究テーマとして掲げています。「起源」とは、惑星がどのように誕生したのか、ということです。誕生したばかりの恒星(太陽のような自ら光輝く星)の周囲にはガスと塵の円盤が付随し、この塵が集まって地球のような惑星となります。こうした惑星誕生の過程は長年、理論的な予想が先行していたのですが、近年、大型望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)の稼働によってその理解が大きく進展しました。また、惑星の「進化」とは、誕生した惑星がどのようにその姿を変えていくのか、ということです。こちらもやはり、太陽系の他の天体に探査機を送り込むような大型計画によって何度もパラダイム・シフトが起こってきました。私自身は、予算的にも人員的にもより小規模な理論的研究を中心に行っていますが、前述のような観測的情報を包括的に説明づける理論の構築と、ひいては理論を裏付ける(もしくは棄却しうる)将来的な観測・探査への予想を打ち立てる、ということを目指して研究をしています。
 足掛け八年を過ごした前職場(東京工業大学地球生命研究所)は、文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラムのもとで、設立されたばかりの研究所でした。「十年で世界に認知される研究拠点に」というミッションを果たすため、スピードが求められる刺激的な環境で研究に打ち込めたこと、組織文化の形成に関われたことは、私にとって大きな糧となりました。そんな若い組織で研究中心の日々を送ってきた人間が、歴史と伝統ある東京大学教養学部で教育に臨むことは、少なからぬ転換です。脈々と受け継がれてきた知性のバトンを次世代につなぐ教育者のひとりとして、新たな一歩を踏み出すべく、先日、担当する惑星地球科学という講義の初回に臨みました。講義では、学生から驚くほど多くの、時に鋭い質問が発せられました。知識と論理を吸収し、自らの思考に取り込もうという個の姿勢が全体として醸成されているのを感じました。一を聞いて十を知る優秀な学生の成長ほどダイナミズムに富んだものはないと、逆に教えられたようです。彼らが伸び伸びと学べる環境づくりに尽力するとともに、若々しさと刺激溢れる駒場キャンパスで私自身も研究教育者として学び続けていきたいと思います。

(広域システム科学/宇宙地球)

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