HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

<時に沿って> 新しいチャプターの始まり

三浦あゆみ

 四月に言語情報科学専攻および英語部会に赴任しました。三月までは大阪大学人文学研究科言語文化学専攻に所属していました。思いがけない展開で東京に戻ることになった私を惜しみつつも温かく送り出してくださった元(という形容が寂しい限りですが)同僚の先生方と職員の皆様に、この場をお借りして改めて心より御礼申し上げます。
 東京に「戻る」という書き方をしたのには複数の理由があります。私は東京で生まれた後、幼稚園から高校卒業まで長崎で過ごしましたが、大学入学から再び東京で暮らしました。その後英国にPhD留学するまでと、帰国してから大阪に住むまでの一年間も東京にいました。「戻る」のは単に都道府県のレベルに留まりません。言語情報科学専攻は私がかつて修士課程を修了し、博士後期課程を単位取得退学したところです。当時は決して優秀な院生ではなく、先生方から色々と厳しいお言葉を頂戴した私が専攻の教員となる未来は全く想像しておらず、本当に良かったのだろうかという思いが強くあります。今後数年は、前任校と同じかそれ以上に、組織における自分のレゾン・デートルを模索する日々が続くように思います。
 東大や駒場は一研究者として特別な意味を持つ場所です。私が専門とする英語史やフィロロジー(文献学)は東大で長い伝統と国内随一の蔵書数を誇ります。分野を代表する錚々たる先生方がこれまで在籍され、多くの研究者を輩出してきました。伝統を途絶えさせることなく、継承しつつ発展させるという命題は大変なプレッシャーですが、それに囚われることなく、歴代の恩師を始めとしてたくさんの方々からいただいた温かい励ましのメッセージを心の支えとして、人生の新しいチャプターを楽しみながら、教員・研究者として成長していければと考えています。
 十年ぶりに駒場に足を踏み入れた際は緊張感を抱きましたが、その後来校回数を重ねるにつれて、院生として通学していた頃との違いは感じつつも、懐かしい思いも徐々に芽生えてきました。本稿執筆時はセメスターの一週目で、授業もほとんどのミーティングもオンラインのため、対面での人的交流が限られていますが、専攻・部会の先生方や職員の皆様に着任前から細やかなお気遣いをいただいたお陰で、順調なスタートを切ることができました。本稿が発行される頃には完全に落ち着いて、仕事に励んでいることを願っています。
 着任に際して最も気がかりだったのが学生の皆さんの様子でした。大学院や後期課程の授業は院生時代の記憶や経験がありますが、前期課程の授業とは全く接点がなかったためです。幸い、一週目の授業はつつがなく終わり、受講者の皆さんの期待を裏切らないよう頑張っていきたいと思った次第です。Aセメスターでは久しぶりに講義科目を担当しますが、私が何かを講義することよりも、学生の皆さんと一緒に学んでいくことや、色々と教えていただけることを楽しみにしています。

(言語情報科学/英語)

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